ファンデーションの砂漠に閉じ込めて⑦
「忌々しい秘密を知るのは私とアナタだけだ。
だがアナタを作り直してしまえば私の不安は完璧に消える。
と言っても……何も殺すわけじゃありません、安心してください。」
「私はアナタの作品にはならないし、これ以上アナタの思い通りに事を進めさせたりはしない……!
『全てを元に戻せ』ッ!」
斎造に暗示をかける。
背後に立っていた斎造はそれを聞いてすぐに動き出した。
「うぐ、あ……ッな……な……何だッ、これはァ……ァァァァがあああ!」
あくまで暗示をかけたのは肉体だけ。
意思までは弄っていない。
彼自身の手で『作品』が崩壊していく様を、彼自身の目に焼きつけるためだ。
そうして彼の人生もプライドも全て打ち砕き、彼女の心を満たすためだ。
体が棺桶に引っ張られるのを察して必死に抵抗する斎造。
だが暗示の力は絶対だ。
逆らえば逆らうほど体力を消費し、最後には力尽きてしまうのみ。
飢えようが病もうが関係なく、決して覆らない『運命』。
「きッ───貴様、何をした……何をしたァァァァ─────!!!」
「何もかも……。
そう、アナタは何もかもを失う。
哀那さんも杮も、『あるべきだった元の姿』に戻る。
アナタ自身の手で───。」
「く……そ……お前も私と同じなのか……くそ……こんなことォォォ!!」
棺桶を開け、哀那の肉体に触れる。
どう見ても大人の彼とは釣り合わない幼い見た目。
目を閉じて深く眠るその姿はまるでどこかの絵画の少女のようだ。
斎造が触れた場所から次第に光に包まれてゆく。
「や……やめろ哀那……消えてはいけない……私の、私だけの哀那……帰ってこい!」
「往生際の悪い男だなぁ。
ほら、今度は杮だよ。」
言われるがまま、地下一階に置き去りにされた杮の元へと走る斎造。
「……。」
先程まで子供の見た目だった哀那は、すっかり美しい大人の女に戻っていた。
ただ、それはひたすら美しいだけの存在。
愛し合うことも憎しみ合うことも出来ない空虚な存在。
魂の抜けた、ただの『モノ』。
斎造は『死体』という素材を用いて新たな人間を生み出した。
だから哀那は素材まで戻った。
しかし、そこから先は真冬の暗示を以てしてもどうにもならない領域。
死んだ人間が生き返るならば、それは奇跡によならければならない。
人が己の意思で人を蘇生するのは生命に対する冒涜。
死と生に対する侮辱。
哀那の境遇は同情に値するし、元凶は全て斎造にある。
それは分かっている。
それでも、哀那を救うことは許されない。
「さようなら、哀那さん。」
不気味なまでに美しい死体に優しく触れ、部屋から立ち去る。




