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神宮寺 真冬  作者: 闇雲
15/16

ファンデーションの砂漠に閉じ込めて⑦

「忌々しい秘密を知るのは私とアナタだけだ。

だがアナタを作り直してしまえば私の不安は完璧に消える。

と言っても……何も殺すわけじゃありません、安心してください。」

「私はアナタの作品にはならないし、これ以上アナタの思い通りに事を進めさせたりはしない……!

『全てを元に戻せ』ッ!」

斎造に暗示をかける。

背後に立っていた斎造はそれを聞いてすぐに動き出した。

「うぐ、あ……ッな……な……何だッ、これはァ……ァァァァがあああ!」

あくまで暗示をかけたのは肉体だけ。

意思までは弄っていない。

彼自身の手で『作品』が崩壊していく様を、彼自身の目に焼きつけるためだ。

そうして彼の人生もプライドも全て打ち砕き、彼女の心を満たすためだ。

体が棺桶に引っ張られるのを察して必死に抵抗する斎造。

だが暗示の力は絶対だ。

逆らえば逆らうほど体力を消費し、最後には力尽きてしまうのみ。

飢えようが病もうが関係なく、決して覆らない『運命』。

「きッ───貴様、何をした……何をしたァァァァ─────!!!」

「何もかも……。

そう、アナタは何もかもを失う。

哀那さんも杮も、『あるべきだった元の姿』に戻る。

アナタ自身の手で───。」

「く……そ……お前も私と同じなのか……くそ……こんなことォォォ!!」

棺桶を開け、哀那の肉体に触れる。

どう見ても大人の彼とは釣り合わない幼い見た目。

目を閉じて深く眠るその姿はまるでどこかの絵画の少女のようだ。

斎造が触れた場所から次第に光に包まれてゆく。

「や……やめろ哀那……消えてはいけない……私の、私だけの哀那……帰ってこい!」

「往生際の悪い男だなぁ。

ほら、今度は杮だよ。」

言われるがまま、地下一階に置き去りにされた杮の元へと走る斎造。

「……。」

先程まで子供の見た目だった哀那は、すっかり美しい大人の女に戻っていた。

ただ、それはひたすら美しいだけの存在。

愛し合うことも憎しみ合うことも出来ない空虚な存在。

魂の抜けた、ただの『モノ』。

斎造は『死体』という素材を用いて新たな人間を生み出した。

だから哀那は素材まで戻った。

しかし、そこから先は真冬の暗示を以てしてもどうにもならない領域。

死んだ人間が生き返るならば、それは奇跡によならければならない。

人が己の意思で人を蘇生するのは生命に対する冒涜。

死と生に対する侮辱。

哀那の境遇は同情に値するし、元凶は全て斎造にある。

それは分かっている。

それでも、哀那を救うことは許されない。

「さようなら、哀那さん。」

不気味なまでに美しい死体に優しく触れ、部屋から立ち去る。

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