5歳の文学少女が描く『叩け! おにぎり伝説』は、古のブラウン管テレビの瞳の中に眠る。
【なろうラジオ大賞2】参加作品です。
◇キーワード◇
「文学少女」「おにぎり」「伝説」「ブラウン管」
今は無きブラウン管テレビ。画面が悪くなったらぺしぺし叩く。そのような光景は今や家庭で見れなくなった――古のブラウン管テレビ。将来、名を遺すであろう文学少女は目を付けた。名は由利ちゃん5歳。PNはユウリ。
彼女は祖母の家に行くといつも、ブラウン管テレビにまつわる不思議な伝説を聴かされていた。それは、ブラウン管テレビをべしべし叩くとおにぎりが出てくるという話だった。強く叩けば鮭味。弱く叩けば昆布味と、叩く強さで味が変わるのだ。もちろん、全て構ってもらいたかった祖母の嘘である。
しかし、由利ちゃんは信じていた。ブラウン管テレビからおにぎりが出てくることを。友達に話せば笑われる日々――そうだ、web小説に投稿してみよう! 由利ちゃんがユウリとして活動するきっかけとなった。
初投稿の小説はこれだ。
『叩け! おにぎり伝説』
私は知っています。ブラウン管テレビのおにぎり伝説を。実はブラウン管テレビには、中に小さなおじさんが居て、必死におにぎりを作っていました。テレビを動かすためのエネルギーがおにぎりだったのです。
しかし、動く必要のなくなったブラウン管テレビは、人間からべしべしされます。その度に、おじさんたちが必死で作ったおにぎりが外に落っこちてしまいます。
そんなおにぎりを食べたという者がこの世に一人いるわけです。その名も、私のおばあちゃん! おばあちゃんは、昆布のお茶漬けが大好きです。
いつも、お菓子をくれて、私に「大好き」って言ってくれるおばあちゃん。私もおばあちゃんが大好きです。
由利ちゃんは、祖母に自分で書いた小説を読ませた。
「あらぁー、全国にこの伝説が伝わるとえぇねぇ」
「今日は何のお菓子くれるの?」
「由利の好きな大判焼きチンしたるわ」
「わーい!」
くるくる回る電子レンジを眺めながら、祖母は、ちゃぶ台に肘をついて自分の小説を何度も何度も音読する孫に想う。
(時代は変わっても、私達が居たってことは忘れんとってや)
電子レンジが心地よく鳴り響く。由利ちゃんは、スマホを床に放って、祖母の足に抱き着いた。
「おばあちゃん、畳の匂いがするー」
「そうかいそうかい」
それは、今しか嗅げない命の香り。大判焼きを頬張る孫を見て笑む祖母。粗大ゴミとしておかれていたブラウン管テレビは、そんな彼女らの姿を映し出していた――――