08
今日こそ絶対に言う。
そう決めてからもう三週間が経過してしまった。
その間にも瑛真さんと夕陽さんは楽しそうに生活を送っている。
「みさ、そろそろ帰ろうよ」
「は、はい」
こちらは依然としてさん付けだけど、向さんの方は呼び捨てで呼んでくれるようになった。
ただ、自分勝手に告白していいのか、だって瑛真さんがいなかったらいまでも夕陽さんのことが好きなんでしょうとか考えてしまい、ずっと行動できていない。
「ちょっと寄り道しようかな」
「どこに行くんですか?」
「え、みさの家だけど」
「へ!?」
これまで何度も誘って来てくれなかった私の家に!?
あ、有りえない、夢でも見ているんじゃないかと考えていたら瑛真さんたちがやって来た。
「みさの家に行くのか?」
「うん」
「そうか、楽しめよ」
「そっちは?」
「俺らか? 普通に過ごすだけだな。今日こそ一緒に夕飯作ってやる」
「はははっ、許可してくれるといいね」
楽しそう……私といる時とは違う気がする。
やっぱり対異性より対同性の方が気が楽なんだろう。
それとも単純に私が嫌だから? あ、駄目だ、こういうことを一瞬でも考えると……。
「行くよ」
「え、あ、あのっ」
「ごめんね、早く行きたいんだ」
そうじゃなくて手ぇ! こっちの手を握ってその顔はやめてほしい。
心臓がそうでなくても大変なんだからこれ以上過酷な環境にしないでほしかった。
あ、だけどこうして引っ張られているとまるでヒロインみたいな気持ちに。
「着いたよ、開けて」
「わ、分かりました」
ガチャガチャと開けながら考える。
今日は確かふたりとも夜遅いと言っていた。
兄妹はいない、私と彼のふたりきり。
「ど、どうぞ」
「うん、お邪魔します」
って、ふたりきりって無理じゃん。
これまでどんなに頑張ったって告白できなかったのに無理。
意識してしまって駄目だよこんなの、なんで今日に限ってここなんだろう。
「君の部屋に行きたいんだけど、駄目かな?」
「い……いですけど」
詰んだー……あんな面白みもない空間に行ってなにがしたいんだろうか。
それになにより瑛真さんのお部屋の方がよっぽど綺麗だ、私のはその……お部屋と言うわけではないけど……人様に見せられるようなところではない気がする。
「へえ、ここがみさの部屋かあ」
「は、はいぃ」
もうなんでもいいや……どうせすぐに飽きるでしょって諦めて床に力なく座った。
告白は高校卒業までに言えればいい、そう考えた瞬間に軽くなる私の心。
でも、痛い……なにも言えずこの曖昧な距離感で居続けるのは苦しい。
夕陽さんはよく小学生の頃から耐えていたと思う。
告白するのも無理、告白しないのも無理というワガママな心だった。
「みさ、こっちに来てよ」
「はい……」
彼の横に座って体操座りをする。
だけどいいや、いまはこのまま向くんといられれば。
あ、さん付けよりいい気がする。
「どうする? いつものゲームでもする?」
「すみません……今日はそういう気分ではないので」
「そっか、じゃあどうしようかな」
どうしようかなはこちらのセリフだった。
なにか目的があってここに来たというわけではないようだ。
仮に部屋に興味があったのだとしてもそんなのすぐ興味を失くす。
となれば後は会話なりして時間をつぶすしかないわけだけど……。
「ちょっと手を見せてもらっていいかな」
「はい、どうぞ」
「前々から気になっていたけど、小さくて可愛らしい手だね」
なにを言われているんだろう、それに前から気になっていたのなら言ってくれればいいのに。
「さっき握っていましたよね?」
「あ、そう言われると痛いんだけど……ごめん、また手を繋ぎたかったんだ」
「なんで?」
「へっ? あ、そ、それはその……」
おぉ、たまにはやるね自分も。
ああでも、向くんの慌ててるところ、ずっと見たかったんだよね。
だって不公平だもん、私ばっかり慌ててるなんてさ。
「ふふ、どうしたの? ほら、そんなに繋ぎたいならいいんだよ?」
「あ、えっ……ど、どうしちゃったの?」
「こ、これが素なんだよ、敬語を使うのやめたいと思っていたんだ」
もちろん大嘘だけどね!
いますぐにでも部屋に引きもりたい――って、ここ部屋だから詰みだけどね!
ちくしょう……やはり向くんは手強い男の子だ。
「ほらほら、手があるよー」
「……うん、ありがとう」
終わったぁ! 完全に痛い女だから終わった……。
せめて私も向くんと幼馴染とかだったら……過ごした時間がいまと違えば理解もしてくれたのに。
「みさ、抱きしめてもいいかな?」
「いいよー……」
「ありがとう、じゃあ」
って、えええええ!?
「好きになっちゃったんだ」
「え……え?」
「夕陽さんが僕といても全然楽しくなさそうだったからさ、楽しそうにしてくれる君といるのが楽しくてね。もちろん、速攻で切り替えられたわけではないけど……君もいい子だったから」
「わ、私で……いいんですか?」
「好きじゃなければこんなことしないよ」
そ、そうか、求められているのならしょうがない、拒む理由もないし。
「い、いいですよ、私が付き合ってあげます!」
「ありがとう!」
ここまで自分が馬鹿だと思ったのは初めてだった。
なに選ぶ立場になったみたいな思考しているんだよ、消えたい。
でも、向くんはなんだか嬉しそうだし……水を差す必要もないか。
「向くん」
「なに?」
「私も好き……です」
「うん、良かった」
ま、まあ、元々そんなにいい人間というわけではないから従っておけばいい。
だけどあれだ、いざ恋人になったらなったでどうしたらいいのかと悩む羽目になるとは。
「今日泊まってもいいかな?」
「向くんだけにですか!?」
「はははっ、そうっ、僕だけにね!」
じゃ、じゃあ、夕陽さんほどではないにしても手料理を振る舞ってみようか。
なーに、未経験であったとしてもこれから学んでいけばいい。
「いいかな?」
「はい!」
なにより側に彼がいてくれるんだからできるだろう。
だから、いつまでも彼の横にいられるように頑張ろうと私は決めたのだった。