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047  作者: Nora_
7/8

07

 普通の好きから特別へと変わったのは小学六年生の頃。

 それこそ、元々優しかった彼がみちよに優しくしているのを見て自覚した。

 でも、そこからが大変だった。

 如何せん、そちらばかりを優先したものだから小学生ながらに私の心は常にモヤモヤ状態に。

 みちよのそれが演技ではないことは知っていたのも逆にもどかしくさせた要因でもあった。

 だから敢えて今回みたいに距離を置いてみたりもしたものの、瑛真は来るし離れるのは寂しいということでなんにも解決策にはならず。

 それなら中学の部活動に所属していれば適度な距離感になるだろうと考えていたのだけど、私も彼もバレー部に所属することになり、いつでも見られる環境になってしまったという微妙な展開に。

 が、その空白の一年間が私を余裕にさせた。なぜならみちよが来なくなったからだ。

 もちろん彼女たちにとっていい人であった私は連絡を取り続けていた、なんなら休日に遊んだことだってあるぐらい。

 本人の希望により瑛真には黙っておいてくれということだったので、好都合だった。


「夕陽、起きろ」

「ええ」


 けれどもし告白のタイミングが昨日でなければ? 笑顔が好きだとか目の前で平気そうに言ってくれたしもしかしたら取られたりしていたのかもしれない。


「羽水に謝ってくる」

「私も行くわ」


 選んだ方法は最低だけど、それがなかったらいまこうして側にいてくれてはいないだろう。

 側にいてくれなんて言ってくれなかっただろうし付き合うことを決めてはくれなかった。


「貴帆さんは?」

「母さんは朝苦手なんだよ、だから昼からか夜勤って感じだな」

「そう」


 ……普通に対応してくれているようなそうではないような。

 いつもの彼と違って少し怖いような、怖くないような。


「夕陽、俺は先に行ってるからな」

「え」

「お前はまだ着替えてないだろ」


 だからってなんでわざわざ別々にとまで考えて、当たり前かと納得できてしまった。

 どうしていつもみたいに真正面から堂々とできなかったのだろうということ。

 こちらの返事はどうでも良かったらしく、彼は当たり前のように出ていってしまう。

 このタイミングで良かったのではないだろうか。

 付き合い始めてからバラしていた場合と比べればダメージも小さい。

 どんな事情があろうと学生であることは変わらないから準備をして。


「貴帆さん」

「んん……あ、おはよ」

「おはようございます。あの、もう学校に行くので、鍵、お願いします」

「あ、スペアキーがあるから持ってていいよ」

「そういうわけには……」

「大丈夫」

「じゃあ……そうさせてもらいますね」


 しっかり鍵を閉めて学校へ向かって歩いていく。

 仮にこれを手に入れられたところでなんの意味があるのという話だけど。


「――いいのか?」


 という声が聞こえてきて、物陰に隠れる。

 学校で、ではなく外で謝ることにしたみたいだ。

 本来なら私がしなければならないことなのに、どうして瑛真が謝るのか。


「うん。諦める気はないとか言っておいてなんだけどさ、最初から無理だと思ったんだよね」

「お前……」

「そんな顔しないでよ、絶対に付き合えるような世界じゃないでしょ?」

「それはそうだが……最初から無理だと考えていたらそりゃ無理だろ」

「だからその時点で駄目だったんだよ。それに本人から聞いたんでしょ? 君のためだったって」

「……ああ、だから謝りにきたんだ」

「いいよ、稲葉くんが悪いわけじゃないしさ」

「そう……か?」

「うん、気にしなくて大丈夫だよ。そりゃ、好きだった人が違う人を好きでいたら残念だけどさ」


 その気持ちはよく分かる。

 瑛真は私の後輩と結構仲良くしていた。

 もちろん、男子の方の後輩や先輩とも仲良くしていたけど、楽しそうなのを見て複雑だった。

 彼がそう簡単に人をそういう意味で好きにならないのは知っている。

 その子だって「瑛真先輩ですか? 好きですけどそういう目では見られない」と言っていた。

 でも……私にとっては一番大事だったから、他の子と仲良くするだけでも嫌だったから。


「許してやってくれ、あいつは基本真面目なんだ。そういうことに長けているわけじゃないから間違ったことも選択してしまう……普通の人間だからさ。いやまあ、なんでも擁護すればいいわけじゃないのも分かっているが……とにかく、責めるのだけはやめてやってほしい」


 ……なんでこんなこと瑛真に言わせてるの、一番謝らなければならない私が隠れて見ているの。


「羽水くん!」

「え、夕陽さんいたんだ」

「ごめんなさい!」


 謝って済むようなことではない。

 だって私は彼の気持ちを弄ぶようなことをしてしまったから。


「顔を上げてよ」

「……ごめんなさい」

「大丈夫だって」


 人に代弁してもらうなんてこれまでの私を否定するようなもの。

 いつだって堂々とぶつかる時はそうしなければ自分らしくない。

 ちなみに、ちらりと確認してみたら瑛真はこちらを見ていなかった。


「それにこんなこと言うと軽い人間のように聞こえるかもしれないけどさ、いまはみささんがいるから」

「みさ?」

「うん、一緒にいると楽しいんだ」

「それはそうね、ハイテンションすぎる時はあるけれど」

「そうそう。でも、そこが好きなんだ」


 これって暗に私がつまらない人間だと言われているようなものか。

 でも、酷いことをしていたんだから責める権利がある。


「学校に行こうか」

「そうね」


 先程からだんまりを決め込んでいる瑛真から離れるように最後尾に。

 羽水くんも瑛真もこちらのことは一切気にしないようにしてくれているからありがたい。


「おはようございます!」


 と、みさが現れたことによりふたりずつでの行動になってしまうまでは問題がなかった。


「なに変な遠慮してんだよお前」

「は、はぁ? してないわよそんなの」

「明らかに距離作ってる」

「それはあなただってっ」

「それはお前が勝手に勘違いしているだけだ、行くぞ」


 勘違いだったらこんなに声音が低いのはおかしい。

 それにさっきから全然こちらのことを見てくれていないし……。


「歩くの速いわよっ」

「これでいいか?」

「……なんで見てくれないの?」

「いくらでも見られるだろ、後でも」

「いま見なさいよ!」


 袖を握って無理やり止めさせたものの、


「静かにしろ」


 というのが彼の答えだった。

 握った手を無理やり離させてひとりで歩き始めてしまう。

 仕方なくそれを黙って追って学校へ。


「あれ、遅かったですね」

「ええ、朝はゆっくりしたいタイプなのよ」


 教室に着いたら来てくれたみさと楽しく話す。

 こういう切り替えの上手さだけは他の誰にも負けるつもりはなかった。

 それでみさを見ているとよくわかる、この子は関わる相手を楽しませることができるタイプだと。

 羽水くんがそこを好きだと言いたくなる気持だってよくわかった。


「あの、喧嘩しちゃったんですか?」

「そんなことはないわよ」

「その割には瑛真さん、ちょっと怒っているようですけど」

「そう? 私はそう見えないけれど」


 この子が好きになった子を自分のために利用したこと、言うべきだろうか。

 瑛真さえいれば嫌われても構わないと考えていた私でも、今回は即決断することができなかった。

 もしかしたら心の拠り所である彼さえ消えるかもしれない。


「稲葉、今度こそ付き合い始めたんだろな?」

「は? それ、やめてくれないか」

「そ、そんなに怖い顔をしなくてもいいだろ? 一種の冗談のような――」

「しつこいんだよ。はぁ……いや悪い、ちょっとイライラしててな」

「あ、いや……俺も悪かったよ」

「気にすんな、だがもうやめてくれ」


 喧嘩にならなくて良かった……けれど。

 不安になる言い方なことには変わらなかった。 




「今日はもう帰るの? 夕陽さんは向こうで話してるけど」

「ああ……ちょっとな、言っておいてくれ」


 こんな中途半端な季節で体調を悪くするとか馬鹿らしい。

 腹にだけ布団をかけて寝たのが失敗だったようだ、床で寝ていたのも起因していると思う。

 だが、敢えて外で謝罪をしたのは正解だったようだ。

 あいつは自分で謝ることができたのだから羽水には悪いがこれで終わり。

 選択ミスなんて生きていればいくらでもする、夕陽だって完璧なわけじゃない。


「大丈夫ですか?」

「大石か。ああ、大丈夫だぞ」

「みささんから聞きました、体調が悪いって」


 羽水の奴もお喋りだな……バレているのなら隠してもしょうがないので肯定しておく。


「お家までかばん運びますよ」

「いや、夕陽に怒られるからいい……悪いな、心配してくれてサンキュ」

「そ、そういうつもりではないですから、してもらったことへのお礼です」

「そうか? なら頼むかな」


 あまり喋ると移してしまうから帰り道はとにかく静かだった。

 にしてもこれが大石だとはなあ、すっかり変わったもんだな。

 話しかけるだけで「ひゃいっ!?」とか言っていた彼女が懐かしい。


「夕陽さんにはちゃんと言ってあげてくださいね」


 そういえば約束を破ったことになるのか。

 今日の俺はあいつにうつさないようにと、気を使わせないようにって行動していた。

 そうか……体調が悪いと言っておけば朝にあんな悲しそうな顔をさせなくて済んだのか。


「ありがとな」

「いえ、気にしないでください。どうぞ」

「おう。気をつけて帰れよ」

「はい! あ……す、すみません、失礼します」


 気にすんなよと告げて中に入る。


「ただいま」

「おかえ――ソファとベッド、どっちに寝たい?」


 ベッドと答えて二階へ。

 もう出ようとしているところだったか、もう少し遅く帰ればよかった。


「はい、お水飲んでね」

「おう」


 適当に制服から着替えて寝転ぶ。

 いまはただただ夕陽のことが気になる。


「どうしよう……タオルとかも持ってきておかないと」

「母さんは仕事に行ってくれ、そこまで悪いわけじゃない」

「そう? あ、じゃあ夕陽ちゃんを呼ぼうか」

「いいっ、そんなことさせられないから」


 というか来ないだろう、今日の俺は対応失敗したし。

 それにわざわざ俺が謝罪なんてしなくても本人が謝っただろうに余計なことをした。

 その好きな女子の気になっているであろう男から謝られたって屈辱でしかないのによ。


「むぅ……分かった、お仕事に行ってくるね」

「おう、頑張れよ」


 風呂、まずはとにかく綺麗にしよう。

 これぐらいの熱なら逆に入浴した方が元気になると思う。

 体を冷やす方が駄目だ、それと風呂に入らないで寝るなんて有りえない。


「う……寒いな」


 洗って出た後が大変だったがさっさと部屋に退散。


「どこに行っていたの?」

「ああ、風呂にな」

「そう、いいから早く寝て」


 今日は全然言うこと聞けなかったし大人しく寝転ぶ。

 きっと合鍵かなんかを朝に受け取っていたんだろうと判断した。

 にしてもサムライみたいなやつだ、歩く時も全く物音を立てない。

 もしかして会いたすぎて幻覚が見えているのか、とすら思ったぐらい。


「なんで言ってくれなかったの?」

「移したくなかった……」

「隠さないって言ったわよね? 私も隠さないであなたに全部伝えているつもりだけれど」

「だから……移したくない、気を使わせたくないって考えてて、大石に指摘されるまで気づけなかった」

「みちよ? どうしてそこで出てくるの?」

「帰りに送ってもらったんだ」


 ああ……また怒られる。

 でも、無碍にもできないだろ、あんな顔とあんな言い方されたら。

 だってずっと返したいって思ってくれていたってことだろ? それにその……好きとも。

 それで満足できるのなら例え夕陽の機嫌を悪くさせたってしょうがないと割り切れるぞ。


「だったらお礼を言っておかないとね」

「……怒らないのか?」

「なんで? みちよが優しいだけじゃない」

「……今日は悪かった、俺は馬鹿だからさ」

「いいわよ。あなたは早く寝て治しなさい」


 側にいると触れたくなる。


「悪いが、手を握っていてくれないか」

「移ったら意味ないじゃない」

「嫌ならいい」

「いいわよ、はい」


 ああ、これだけで安心できるんだからやはり俺が好きなのは夕陽だ。


「好きだ」

「そういうのは後で」

「おう、おやすみ」


 取られたくないから早く元気になろう。




「ふふ、可愛い寝顔」


 それにしても、自分の感情ばかり優先していて全然気づいてあげられなかった。

 羽水くんはどうやら気づいていたみたいだし、正直に言って失格のようにも感じるけれど……。


「好き、か」


 たったその二文字の言葉を私はあの時からずっと求めていた。

 ワガママを言わせてもらえば弱っている状態に任せたりせず、元気な時に真っ直ぐ言ってほしかった。


「失礼しまーす……瑛真さんは寝ましたか?」

「ええ、少し部屋を出ましょうか」


 少しだけ怖くてみさには一緒に来てもらっていたのだ。

 そこまで大声で会話する予定はないため、廊下に居座らせてもらうことにする。


「恥ずかしいわ……自分のことばかりしか考えていないで」

「それは私も同じですよ」


 今度から泊まる時は必ず瑛真にはベッドで寝てもらう。

 大体、部屋の主が変な遠慮する必要はないだろうという話。

 というか……別に好き同士なら同じベッドで寝ても問題ない気がするけれど。


「あの、夕陽さん」

「なに?」

「向さんから全て聞きました」


 あ……そういえば今度は瑛真以外のことがどうでも良くなっていたという……。


「ごめんなさい」

「瑛真さんに謝らせてしまったのは駄目だと思います」

「ええ……」

「あとはそうですね……………………」


 この間はなんだろうか。

 変な気を使って言いたいことを言えないということだろうか。


「私、向さんのことが好きなんです、例え相手が夕陽さんであっても負けたくないです!」

「ふふ、私の負けよ」

「や、やったー!」

「しー!」

「あ……」


 ふたりで笑って、私は瑛真の部屋の扉を見つめる。

 一緒に寝たいっ、と心底そう思っている。

 でも、みさがいる前でそんなことできないし……。


「ん? ああ、みさもいたのか」


 それでも突撃しようとしたら逆に部屋の主がこちらへと出てきてしまった。

 そういえばいまさらな話、いま瑛真が着ている服はこの前私が着ていたものだったから。

 



「お、起きて大丈夫なんですか?」

「ああ、心配してくれてありがとな」

「友達なんだから当然ですよ」

「はは、そうか」


 しょうがないからふたりを連れ込むか。

 夕陽の手でみさの腕を掴ませ、こちらは夕陽の手を掴んで引きずり込む。

 いまの俺は蛇みたいなものだ、狙った獲物は逃さない。


「適当な場所に座ってくれ」

「分かりました」

「分かったわ」


 俺もベッドではなく適当な場所に座る。

 あまり入ったことのないみさは物珍しそうに色々と見ていた。

 残念ながらなんにも面白みもない部屋だが、ふたりがいるだけで全然違う。


「で、どうするか」

「あなたは寝なさい」

「もうマシになったんだ、風呂に入ったおかげだな」


 元々凄く調子が悪かったわけではない。

 今日は夕陽と一緒にいられないと思ったら微妙になっていっただけだ。


「これってもしかして私、空気が読めていないのでは?」

「そんなことはないぞ」

「あ、だったら向さんを呼べば!」

「それなら外で会ってくれ」


 別にそういうつもりではないのに「あ、ほら、邪魔者なんじゃないですかー!」とみさが怒る。

 しょうがないから俺の方で羽水を呼ぶことに、一階でイチャイチャ――仲良くさせておけばいいはず。


「来たよっ」

「え、どうやって入ったんだお前」

「え、合鍵」


 体調の悪い時よりゾクッときた。

 こういう展開は望んでいない、夕陽がこうしていつだって来てくれればいいんだが。


「というのは冗談で、玄関が開いていたからさ」

「あ! 鍵をするの忘れていました……」

「はははっ、みささんらしいね」

「え……」


 確かにみさらしくていい。

 別にここら辺は治安が悪いわけではないが、是非気をつけてほしいと思った。


「さて、みささんは連れて帰るね」

「おう」


 白目のまま固まっていた彼女の手を握って仲良く部屋から出ていく羽水。

 まあ好きな人間からドジ認定されたら誰だってそうなるか、仕方のないことだ。


「夕陽、夕飯作ってくれ」

「分かったわ」


 完全に任せるのは申し訳ないから俺も手伝い開始――とはならず。


「座っていなさい」

「はい……」


 やはりというかひとりでやることにこだわりを持っているようだ。

 と言うよりも、中途半端に場を荒らされることよりかは楽だからかもしれない。

 だから大人しくソファに座っておくことにした。

 その間、もし夕陽が彼女だったら幸せだなと妄想しておくことに。


「いや! おかしいだろうが!」

「うるさいわよ」


 俺、さっき告白したよな? なに普通にスルーされてんだよ。

 返事は? せめて答えてから他のことをしていただきたいものだが。


「変な顔してないで大人しく座っていなさい」


 や、誰のせいだと思っているんだ……あとその顔やめろ、ゴミ虫を見るような冷たい目やめろ。

 だったらまだ無視してくれていた方がマシだからソファの前の床上に寝転んでおいた。


「ねえ」

「なんだ?」

「あなたってピーマン大好きよね?」

「あ、ああ、好きだが」

「じゃあはい、生であげる」


 苛めか!? こちとら一応病み上がりなのにそんなに今朝のことがムカついていたのかっ?

 いやでも俺は別に生でも食べられる、しょうがなく目の前で完食してやった。


「ね」

「なんだ? あ、ちなみに人参も生で食べられるぞ」


 もっとも、やはりマヨネーズとかそういうのはほしい。

 逆に言えば、そういうのさえあれば白飯三杯ぐらいは食べられるということだ。

 

「そ、そうじゃなくて……」

「まさかお前は嫌いになったのか? 駄目だぞ、好き嫌いしてちゃ」

「そ、そうよ、私だってピーマンや人参はす、……好きよ」

「いいな! やっぱりお前は偉いやつだよ! ――って、話を逸らしてんじゃねえ!」

「ひゃ!?」


 そんなことに割いてる時間はねえんだよ。

 このままだとせっかく夕陽の作ってくれた夕飯を味わうことができない。


「俺は夕陽が好きなんだ! 返事をくれ!」

「……い、いま言った」

「おいおい、俺はピーマンや人参だったのか?」

「……いままで言えなかったのよ、先に言われている状況で言うのはその……恥ずかしいじゃない」


 というか俺ら、もう告白していたようなものか。

 いまさらこういうところにこだわるのは遅いのかもしれない。


「夕飯作りは?」

「……してない」

「まあいいか、部屋に行こうぜ」

「え、な、なんで?」

「一緒に寝ようぜ、今日こそは」


 固まっている彼女を連れて部屋に戻る。

 ベッドに寝転ばせて、その横に自分も堂々と寝た。

 また体調が悪くなっても嫌だからきちんと布団をかけておく。


「ほら」

「え、ええ……」


 握った夕陽の手は普通に温かった。

 そのことに安心した俺は、なんとか手を握ったまま体を反転させる。


「最近、ちゃんと寝られているか?」

「あなたが側にいてくれるから」

「ごはんは?」

「貴帆さんのごはんは美味しいから食べなきゃ損よ」

「ならいい」


 会話が終了しても気まずいということはない。

 寧ろの手の温もりや彼女自身の熱を感じられて心地良かった。

 

「瑛真」

「ん?」

「好きよ」

「サンキュ」


 これを繰り返しているだけで朝になりそうだ。

 それもそれで楽しいだろうが――って、


「ふふ……えい……しん……」

「寝てるのかよ」


 あっという間に彼女が寝てしまって結構呆気なく終わってしまう流れに。

 ま、今朝も言ったように後でいくらでもできるから、その寝顔を眺めるだけにしたのだった。

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