02
「へえ、綺麗な場所だな」
「はいっ、前々からずっと気になっていたんですっ」
って、どうやら昨日今日できた店というわけではないようだ。
だが、少し気になるのは……照明が眩しいこと。
過剰すぎるだろこれ、目が痛い。
あとはあれ、なんか女子向けアニメのキャンペーンみたいなのをやっているらしく、小中高生からお姉さんやおばさんまでたくさん来ているのが正直鬱陶しい。
そしてそこに青島も嬉々として向かって長蛇の列に加わっていた。
つまり俺はひとり、虚しい。
しょうがないから一般向けコーナを見ておくことにする、あんな女子まみれのところに行ったりはできないからな……。
「綺麗な場所ね」
「ああ」
「みさはあっちに興味があるみたいだけれど」
「ああ……って、なんでいるんだ?」
珍しく長い髪を後ろでまとめてクールな表情で横に立っていた彼女。
意味なく動かしてふわっとさせる、それを俺も意味なく目で追ってしまった。
「私もここには興味があったのよ」
「そうなのか。あ、夕陽もあれに興味があるのか?」
「それはないわ」
「あ、そう……」
一応近くにファンの方々がいるんだから真顔で即答しなくてもいいだろうよ。
「珍しいわね、みさから誘うなんて」
「それな、少しは信用してくれたのかもしれないな」
「嬉しい?」
「そりゃ嫌われるよりはな」
愚直に真っ直ぐ接するしかないからな、それがいい方向に繋がったということだから嬉しいに決まっている。
びくびくされると苛めているみたいに判断されるかもしれないし。
「あなたって優しいわよね」
「は? なんだよ急に」
「そう思ったのよ」
「それを言うなら夕陽の方がそうだろ。だから俺はお前と一緒にいたいんだろうが」
「優しくなんかないわよ……私なんて」
なんで急にこんなネガティブモードなんだ。
最近向き合うと決めた奴に悪口でも言われたのか?
って、そんなことするわけねえよな、だったら気に入ったりはしないだろうから。
「あれ、夕陽さんも来てたんですねっ」
「ええ……」
「ん? どうしたんですか? あ、もしかして稲葉さんに苛められて……駄目ですよ稲葉さん!」
ちげぇ……やっぱり信用なんかされてないな、精々雑用扱いレベルだろこれ。
俺はこれ以上用がないから先に外に出る。
どうやらふたりも満足したらしく、すぐに出てきて横に並んだ。
「今日はありがとうございました、おかげで楽しめました。けど! 駄目ですよっ、夕陽さんを困らせては! お互い夕陽さんのことが好きなファンじゃないですか! ファンならそれだけはしては駄目なんです! こほん、謙虚に活動しましょう」
ファンじゃなくて純粋に好きなだけなんだが、似たようなものか?
困らせてはいけないよな云々を話して家の方へと歩いていく。
久しぶりにこっちの方まで来たからなかなかに新鮮だった。
そういえば夕陽のやつはいつ出かけるんだろうか。
出かけるとなれば商業施設、映画館、動物園、水族館とか色々あるな。
「夕陽」
「なにかしら?」
「まだ家に誘ったりするなよ? 危ないからな」
「それは大丈夫よ、当分の間は誘う気はないもの」
それならいいんだ、いつかはくると分かっていても心配にはならないから。
どんどんと距離ができていく、俺はそれを見ているだけしかできないなんてもどかしい。
くそ……夕陽の揺らそうとしている人間はどんな奴だ。
でも、会ったって敗北感を感じるだけだろうからどうしようもないと。
「危ないですよ、フラフラと歩いていたら」
「フラフラなんかしてないぞ。送るから行こうぜ」
「ありがとうございます。でも、明るいので大丈夫ですよ?」
「いいから黙って送られておけ、いいな?」
「は、はい、じゃあ……お願いします」
よし、このもやもやは青島に優しくすることで解消しよう。
彼女の方からよく来てくれるようになったんだから恐らく大丈夫。
それにしても随分陽が長くなったもんだ。
少し前までならどこかに寄って帰ったりなんかしたら薄暗闇だった。
まあそれのかわりに暑くなってきているという明確なデメリットもあるが、悪いことばかりでもない。
すぐに暗くならなければその分遊びに行きやすくなる。
相手がいないということはとりあえず置いておくとしても、仮にまたこうして誘われる機会があるとすれば役立つということだ。
あんまり遅くなったりすると危ないからな。
「あ、あの、ここまでで大丈夫ですよ、もう家だって見えていますし」
「中途半端なことさせるな、それこそここまで来たならちゃんと送る」
「でも……」
「いいから」
「はい……」
別に家を知って悪用なんかしねえよ。
それこそ半年前ぐらいから知っているんだから、現時点でしていないことから信用してほしい。
いちいち気を使いやがって、そんなに怖くねえだろうが俺は……。
「あ、ありがとうございました」
「おう、それじゃあな」
「はい、気をつけてくださいね」
「サンキュ」
それとも実際は怖いのか?
あくまで夕陽が普通に対応してくれているだけで、他者から恐れられていたのだとしたら。
「なるほど、それで俺はひとりなのか」
「なにぶつぶつ言っているの?」
「なあ夕陽、俺って怖いか?」
「怖い? あなたが? あははっ、そんなことないわよっ」
こいつの笑った顔って可愛いな……じゃなくて。
でも夕陽とは過ごしている年数が違うからな、青島からすれば怖いのかもしれない。
やはり真顔が問題か? なら笑顔を浮かべるしかないが……。
「夕陽、これって笑顔に見えるか?」
「殺人鬼に見えるわ」
「酷え……」
そりゃ怖いわな、自然な笑顔でどうすれば引き出せるんだか。
「夕陽といる時なら自然に笑えるんだけどな」
相手が楽しそうにしてくれているというのも大きいのだろう。
一方、青島の場合は必死な顔か怯えた顔か困惑顔か泣き顔かという、ほとんどネガティブな方向ばかりだからこちらも無意識に難しい顔になってしまうのかもしれない、そうなればより彼女も怖がって堅くなるからさらにそうなると。
だが、今度は彼女の方が笑わなくなってしまったのが気になる、そのため、先程笑顔を見られたのは俺の中では大変大きかった。
「帰りましょうか」
「だな」
いいんだ、まだ付き合っているわけじゃないからこういうことを言っても怒られない。
また、言えればそれで満足できるから返事なんて一切いらない。
これまで感じていたことをこの短期間で一気に吐こうとしているだけだ。
「今日の晩ごはんはどうするんだ?」
「今日は三色丼ね」
「美味そうだな。俺は母さんに言って自分で作るようにしたから適当だが」
「適当って大丈夫なの?」
「ああ、これでも一応作れるからな。もちろん、お前の手料理には敵わないけどな」
いいよな、創作世界の幼馴染は起こしに来てくれたり弁当を作ってくれたり。
さすがにそれを求めるわけにもいかないから、そんな甘々な感じは全然なかった。
だからこそ俺のところに来てくれて楽しそうにしてくれるのが好きだったわけだが、それもそろそろ終わりを迎えるんだと――何度考えるんだよこれを。
とにかく、勝手な話だが夕陽が幸せになってくれればいい、ただそれだけのことだ。
「甘えるのは駄目よ、自分でやると言ったのなら頑張らないと」
「分かってるよ」
なんで失うとわかってから頑張るのか。
どうして当たり前のようにいてくれた昔に努力しなかったのか、俺はいまそれを一番悔いている。
「さようなら」
「いままでそんな言い方していたか?」
「別れなんだからこれでいいでしょう?」
「……俺的にはなんか引っかかるが、まあそうだな……それじゃあな」
なんか終わりみたいで嫌じゃねえか。
たまに来るとか言っていたがあれだってただの口約束だ、本当かどうか分からない。
たった少し、いや、明らかに来なくなって一日も保たずに寂しさを感じた俺だぞ。
「作るの面倒くさくなったな……」
家に帰ったらどっとやる気がなくなってしまった。
こういう時にこそふりかけとかお茶漬けとかそういうのが大活躍。
でもまあ、食べておかないと力も出なくなるからしょうがないと割り切ってかきこんだのだった。
「青島、やばいんだが」
「なにがやばいんですか?」
「依存、しすぎていたみたいだ」
夕陽からしてみればそんな俺と距離を置けて解放された気分だろうが、それでもわざわざ「さようなら」なんて言い方をしなくてもいいと思う。
いつもなら「おやすみなさい」で終わるところだぞ、俺と過ごすことでその他クラスの男子に罪悪感を抱いたということなら……まあ、納得はしたくないがしょうがないものだって割り切れるんだが……。
あれだ、中途半端に近づいてくるから気になるんだ。
いっそうのこと、その他クラス男子が独占とか禁止令とか出してくれればこっちは楽になれるのになあ。
「稲葉さんは依存していないと思いますよ、大切にしているだけだと思います」
いまの救いは普通に喋れるようになったということか。
「ただ私、気になったんですけど」
「ん?」
「なんかおかしくないですか? 主に稲葉さんの態度が」
ああ、こりゃもう言ってやるのが一番だろう。
この短期間の間になにがあったかを説明して、楽になろうとした。
ほら、人に聞いてもらうと意外とスッキリするとかって聞いたことがあるし。
「そうだったんですか……」
「おう」
「でも、わざわざ距離を作る必要ってありますか? 近づきたければ近づけばいいと思いますけど」
そんな簡単な話じゃないんだ。
そりゃ、俺の中に変な感情とかがあったりしなければ能天気に近づけた。
でも実際は違うんだ、いまこの時だってその他クラス男子がどんな奴かって気になっているし夕陽のことが気になっている。
なのに近づいたら彼女を困らせるだけだからできないと。
「いいんだ、青島に聞いてもらえてスッキリできたから。それよりどこか行きたいところとかないか? 一緒に行くくらいならしてやるぞ?」
「夕陽さんのお家ですね」
「それは本人に頼んでくれ」
あまり夕陽の家は好きじゃない。
なんか寂れていて、すぐに帰りたくなる場所。
あいつは無駄遣いをしたりしないから部屋の中には最低限な物しかない。
よくあんな場所でひとりで暮らして普通でいられるものだと考えていた。
「夕陽さん!」
おいおい……まさか目の前で誘うわけじゃないだろうなと不安視していたのだが、
「あれ、無視……されちゃいましたかね」
こちらを見た夕陽はぷいと顔を背けてしまった。
そのまま他の人間とは会話をしているものだからよりその事実が目立つ。
「あ、おい、泣くなよっ」
「だ、だって……嫌われちゃったってことですよね?」
「違うぞ、俺が近くにいるからだ。ひとりで誘ってみろ、そうすれば平気だから」
そうでなくても変な考え方をする青島にああいう態度は駄目だ。
俺が呼びかけて無視なら全然いいが、青島のそれを無視するのはいただけない。
ただもう休み時間が終わってしまうため、続きは次か放課後かというところ。
青島と接してみて分かったことだが、別に俺に限った話ではなく皆が夕陽を頼りにしている。
俺たちはそれでいい、頼れる存在が近くにいることは安心できるから。
が、夕陽にとってはそうじゃないだろう。
例えばあいつに好きな奴とかできた時とかに確実に邪魔になる。
困っている人を見捨てられないタイプだから、そちらを優先してしまったりもしそうだ。
けれど夕陽だって所詮はひとりの人間、いずれ支えられなくなって潰れてしまう可能性もあるわけで。
だからこそその男子には頑張ってほしいと思う。支えてやってほしい。
いつまでも他力本願なのは褒められることじゃないけどな。
「稲葉さんの言う通りでした」
そんな言う通りは嬉しくねえが。
そうだ、そういうところで彼女は嘘をついたりはしない。
青島のことを大切にすると決めたのなら、どんなことがあろうとそれを貫くのが芹沢夕陽という人間。
「明日、行けることになりました」
「良かったな」
わざわざ報告するのが流行っているのかもしれない。
俺には関係のないことを報告されても困りしかしない。
勝手に行ってこい、勝手に仲良くしろ、そんな考えがまだ残っている。
寂しさなんかじゃなかった、俺の物じゃないのに独占欲が働いていたんだ。
昨日から考えていたことだが、その気持ち悪さに反吐が出そうになった。
「それでですね、稲葉さんもどうですか? 夕陽さんに聞いてみたら別にいいとのことでしたけど」
そこで普通に誘おうとする青島は優しい。
多分、仲間はずれにしたくはないんだろう、された経験があるからこその考えの可能性もある。
「夕陽と楽しんでこい」
「……一緒に行ってくれるんじゃなかったんですか?」
「言っただろ? いま俺らの関係は微妙なんだよ」
そりゃ行けるなら行きてえよ。
夕陽といるのが当たり前だった、いつだって来てくれて楽しく過ごせるのが好きだった。
「駄目ですよ、そんなの。だって稲葉さんは夕陽さんと仲良くしたいんですよね? なのに変に我慢したって苦しいだけじゃないですか!」
「我慢……は違うと思うが」
「じゃあ遠慮していますよねっ?」
「ま、遠慮はしているな、それは青島の言う通りだ」
「そういうのやめた方がいいと思います! 絶対に後悔しますから……」
と言ってもなあ、先程俺がいたせいで青島を無視するぐらいなんだぞ?
明らかに求められていないって分かるだろ、青島の手前、断れなかっただけだ。
「夕陽ファンクラブからは今日で脱退だ」
いまはとにかく時間が経過してほしい。
それでいまのお互いにとって中途半端な状態から変わってくれればそれで良かった。
始まりがあればいつか終わりも必ずくるというだけ。
「なんでですか……」
「青島……お前涙もろすぎねえか? 別にいいだろ、お前は仲良くできるんだから」
こっちのことなんか気にせず仲良くやっておけばいい。
や、もちろん優しさなのは分かっている。
でも、やればやるほどこちらが意固地になって終了だ。
もう一緒にいてほしいと思うだけでいてくれるような関係ではなくなっただけ。
ああ……そのせいでまだ残っている人間にジロジロ見られるし……はぁ。
「ちょっと付き合え」
「え、あ、あの――」
どうしてわざわざ手を握ったのか、めちゃくちゃ困惑した。
それでも変に止まったりすると確実に気まずくなるからまずは昇降口まで移動する。
「ファミレス行こうぜ」
返事なんかどうでも良かった、靴を履いたのを確認したらまた掴んで連れて行く。
ま、嫌なら強制的に振りほどくことだってできるだろうし、恐らく問題はないはずだ。
「は、速いです!」
「悪い……」
そういえばなんでこんな逃げるみたいな形で向かわなければならないのかという話。
落ち着いたら馬鹿らしくなって手ももちろん離した、これは青島のためなんかじゃない。
「やっぱりいいわ、送るから帰ろうぜ」
「え、行かないんですか?」
「行ってくれるのか?」
「私は別に構いませんよ」
これには正直驚いた、断られると思っていたから。
ただ、関わる相手が優しければ優しいほど、また依存してしまうのではないのかって恐れている。
特に青島みたいな子は駄目かもしれない。
「悪いんだが……青島が行きたいから付いてきてくれって言ってくれないか?」
こういう形でなら自然ではないだろうか。
もう依存しそうになっている状態から抜け出せる――ことはないかもしれないが、俺が誘って彼女を連れて行くよりかは問題がない気がした。
「えーっと、一緒に行ってくれませんか?」
「ああ……分かった。あ、金は出すから安心してくれ」
「そんな、申し訳ないですよ」
「これは俺のためなんだ、この色々な無駄な感情を捨てるためのな」
「そうですか、そういうことならドリンクバーの代金をよろしくお願いします」
「おう、任せておけ」
ガッツリ食うわけじゃないからな、飲み物飲んで話せればそれでいい。
だが、なにを話せばいいのかって店に向かっている途中考える羽目になったが。
「あ……」
商業施設から出てきて歩いていた時、偶然見つけてしまった。
「どうしたんで――どうしたの?」
一緒に行っていた子が聞いてくる。
その場では「欲しい物を買い忘れた」と咄嗟に理由を作った。
でも、気になりすぎて家に着くまでどんなやり取りをしたのか全然覚えていない。
「ゆ、夕陽さん」
「え、あ、まだいたの?」
「……今度の土曜日、よろしくっ」
「ええ、気をつけて」
「う、うん、それじゃあ」
彼と別れて家の中に入る。
買い物にだって行けてないから食材もなければやる気もない。
ソファにうつ伏せで寝転んで、なんか無性に今日自分のしたことが馬鹿なことのように思えた。
なんで無視なんかしてしまったのか、これに尽きる。
そのせいでみさは泣かせてしまうし多分……だからこそ瑛真に嫌われたとそう考えた。
先程の光景はそんな自分に対する罰なのだろうか。
「……向き合うって決めたんだから」
先程の彼、羽水くんといると決めたんだから。
率直に言えば駄目だった。
なにもかもやる気を奪ってしまうぐらいにはインパクトがあった。
この前もそうだった、みさとふたりきりで行動するのが普通みたいに。
恐らくふたりにそういう感情がないことは分かっているのに、気になって寝ることすらできやしない。
行こうか……幸い、瑛真の家は近いんだし。
「……できるわけない」
から、みさに連絡を取ってみることにした。
「珍しいですね、夕陽さんが電話をかけてきてくれるなんて」
「ええ……ごめんなさい、夜遅くに」
私は大丈夫と彼女を笑ってくれる。
いつの間にか瑛真とも普通に会話できるようになっているし私がいない間になにかがあったのかもしれないと考えたら余計に落ち着かなくなった。
「偶然……見てしまったんだけど……」
「あ、ファミリーレストランに行っていたことですか? 私はてっきり手を握られていた時のことだと思いましたけど」
「て、手を?」
「はい、放課後にちょっと一方的な言い合いみたいになりまして……優しい稲葉さんが連れて行ってくれたんです」
みさが本音をきちんとぶつけられるぐらい信用しているということ、それはとてもいいことだ。
でも……手を繋ぐのなんて小学生の時ぐらいを最後にしてくれてないのに……。
「でも、許せないこともあります」
「なにが許せないの?」
「だって稲葉さん、夕陽さんといたいのに変な遠慮をするからですよ」
それは私のせいで瑛真は悪くない。
いま言っていたように瑛真が優しいからそうしてくれているだけだ。
困らせたくないとかそういうのだろう、昔から遠慮とかも多かったし。
なのにこっちのことは平気で手伝ったりしようとするから……ちょっと嫌だった。
だって一方的に支えてもらっていたら申し訳がないから。
「みさ、瑛真のことを名前で呼んでみたら?」
「私がですか? 怒られないでしょうか……」
「怒るわけがないじゃない、瑛真はちょっとしたことで怒る短気な性格じゃないわ」
「よく知っているんですね! さすが幼馴染です! えっと、瑛真……さんが――」
自分で言っておきながらきゅっと痛くなって最後まで聞けなかった。
なにをやっているんだろうか、馬鹿すぎて仕方がない。
「……ありがとう、教えてくれて」
「いえ、お礼を言われるようなことでは」
「それじゃあね、暖かくして寝るのよ?」
「はい、おやすみなさい」
電話を切って仰向けになる。
「みさが楽しそうならそれでいいじゃない」
と、どこかに言い訳をしてさすがにお風呂には入ることにしたのだった。