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呆然とソファに座り込んでいたら父上が足早に部屋へと入ってきたので慌てて立ち上がる。
ドアの脇に家令が立った。彼が父上に知らせたのだろう。
「何があった」
怒りを押し殺したような声に、びくりと肩が震えた。
でも、答えられない。
だって、何が起こったのか知りたいのは僕の方なんだから。
だから、こう言うしかない。
「わかりません」
その途端、頰に衝撃が走った。
「女一人泣かせておいて、わからん訳があるか!」
殴られたことより、怒鳴られたことより、その内容にびっくりした。
父上、そういうこと気にするんだ。
なんとなく父上は、家の利益とか領の利益とか国の利益のことしか考えてないと思っていた。
新たな衝撃に呆然としている僕に
「顔を冷やしたらサロンに来なさい」
そう言い残して父上は部屋を出て行った。
「旦那様にも少し時間が必要でしょうから」
と家令に促され、再びソファに座る。
いつの間にか用意してくれていた、氷を包んだタオルを受け取って殴られた頰に当てた。口の端が少し切れたようで、タオルに血がにじんだ。
「何があったのです?」
ソファの脇に膝をついて、視線を合わせて尋ねる家令に、力なく首を横に振った。
「わからないんだ」
家令は穏やかに僕を見つめて、
「それでは旦那様はご納得されないでしょうから、何が起こったのか順序だてて説明できるようにしておくとよろしいですよ」
と助言をくれた。
静かで暖かな声音。
僕の力になろうとしてくれているのが伝わってきて、肩の力が抜けた。
お忙しくてほとんど構ってくれない父に、父上は僕のことなんてどうでもいいんだと拗ねていた時も、ずっと見守ってくれた人だ。
彼も僕にとって大切な人の一人だ。
「ありがとう」
そう告げると、にっこりと微笑まれて心が少し軽くなった。




