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だから、彼は嘘をつく  作者: ひろゆき
8/8

参 (4)

 今回が最終話になります。彼は最後にある決断をします。なぜ、彼女が今まで変な条件にこだわっていたのかを、最後まで楽しんでいただければ嬉しいです。

 気にする必要なんてない。

 とは口に出せずにいた。

 彼は合わせていた手を下ろし、辺りを見渡した。

 それがきっかけで“マネキン”と呼ばれるように、控え目になったのだろうか。

 彼は小さくかぶりを振る。

 書店で見た彼女はとても明るかった。

 あの彼女が本来の姿なんだと信じたかった。

 彼女の姿を思い返していると、足元でしゃがんでいた、彼女の友達が不適な笑みを浮かべて彼を見上げていた。


「なんだよ」

「いや、なんか真剣に考えてるのかなって見えたから」

「いや、まぁ……」

「ふ~ん。そう」

「なんだよ、その顔。それより、いいのかよ、お前こそ」

「あたし?」

「それこそ、疑われるんじゃないのか、土田に」

「なんで?」

「……だって」

「あ~ぁ。大丈夫、大丈夫。あんたなんか対象外。疑いもしないから」

「どういう言い方だよ、それ」

「ゴメン、ゴメン。そんなに怒んなくていいって」

「ったく、分かったよ。お前ら、お互いに信じてるんだって。だから、お前もあの噂に平然としてたってことか」

「噂?」

「土田と、あいつがケンカしたって話。それで、あの二人が前に付き合っていたんじゃないかって」

「あぁ、それ違う。あいつ、あたしのことを考えて、楓に話しかけたんだと思う。けれど、楓ってあぁ見えて強情だから。それでケンカしたんだと思う。「放っといて」って」

「あ、それは分かる気がする」

「それに彼だもん。今日、あんたを誘ってここに行けばって提案したの」

「ーーえっ? なんで?」

「実はさ、もうここに頻繁に来ることは止めようと思ってる」

「どうして?」

「あたしね、好きな歌があるんだ」

「なんだよ、急に」

「それってさ、ある恋人同士の歌なんだけど、彼氏が死んじゃうの。それで、彼女は悲しんで泣いて、を繰り返すの。それを彼は空の上からずっと見守り続けている。でも、彼は彼女に泣いてほしいんじゃないの。自分のせいで苦しむんじゃなくて、上を向いて笑顔を見せてほしいって歌なんだ」

「上を向いて、か」

「そう。それって、もしかしたら涼も同じなのかなって思って。勝手なんだけど」

「そっか」

「まぁ、そう教えられてやっと気づいたんだけど」

「それって土田が?」

「うん」

「なんか、意外だな」

「結構、気が利くの」

「ふ~ん」

「それで、あんたはどうなの?」

「何がだよ」

「楓のこと、どうなのよ?」

「そのことか……」

「そう。まぁ、服部くんが一方的に好きみたいだけど、何もないらしいし」

「服部が?」

「うん。急がないと危ないかもよ。楓って、態度は冷たいけど可愛いんだし、結構モテるんだから。その妬みで陰口が多いんだけど。ーーで、どうなの?」

「……前にコクった」


不適な笑みに、より含みが深まってしまった。

 流れから、以前に彼女に告白していたことを白状してしまい、後悔してしまう。

 もう覚悟するしかない。

 彼は出されていた条件を話した。

 すると、しゃがみ込んでいた彼女は立ち、そのまま空を眺めて黙り込んでしまう。

 どこか悲しげな眼差しを捧げて。


「……あたしさ、ここに来ることはあと一回だけにしようと思うの」

「あと一回」

「うん。楓とでね」

「でも、あいつは」

「あんたなら、あの子の気持ちを和らげられるんじゃないかなって、思ったんだけど。だって、楓がそこまで言うとは思わなかったから」

「でも、言ったろだろ。あいつには好きな奴がーー」

「ーー嘘よ、そんなの。うん。きっとそう」

「じゃぁ、なんで嘘なんか」

「あの子は罪滅ぼしだと思ってるのよ。そんなの気にしなくてもいいのに。そんなこと」

「そうなのか……」

「バカよ、そんなの…… そんなの」



             3

 


 気づいていた。

 親友が自分の恋人に想いを寄せていることを。

 恐れていた。

 いつか恋人が自分から離れていきそうで。

 自分が汚いというのも。

 親友が好きなんだと知りながらも、彼女の前で彼の話をしてみたりした。

 だからこそ、あのとき自分のスマホで、勝手に恋人に身に覚えのないメッセージを送られていたと知っても、驚きはしなかった。

 やっぱり、と。

 今まで親友の気持ちに気づかないフリをしていた罰なんだと。だからこそ、間違いだと恋人に言い訳はしなかった。

 彼がどんな態度を取ろうとも、受け止めるつもりで。

 そしてーー。


 親友は事故で命を落とした。


 当初、事態が掴めず困惑してしまった。

 時が経ち、もう一人の親友の火野雫に事情を聴き、彼女は愕然となった。

 あのとき、彼女に事情を聞いておけば……。

 嫌われると知りつつも、責めておけば……。

 親友が死んだのは自分が臆病だから。だからこそ、これは与えられた罰であるんだと。


 恋人ともそのあと、すぐに別れた。

 理由を問われても、何も話さず一方的に。

 彼女は自分を責め続けていた。

 もう自分は普通に誰かを好きになってはいけないのかな、と。

 だから、どれだけ自分に非がなくても、悪い噂が流れても、彼女はそれを甘んじて受け入れた。

 どれだけ根も葉もない噂であっても、疑われても、反論はしなかった。

 言葉を発しないマネキンのように。


 それでも、彼女に想いを寄せる人物はいた。

 そこで彼女は嘘をつく。

 普通に断るのではなく、嫌な印象を残して。

 自分を追い詰め続ける。

 だからこそ、告白してくれた彼に、彼女は頭を真っ白にした。

 横暴な態度を取っても、普通に接してくれる彼に。

 木戸蓮に。

 最近はよく屋上で話した。

 気さくに話せたし、久しぶりに笑ったりもした。

 忘れようとしていた感情が熱くなろうとしていた。

 気持ちとしては……。

 しかし、平静を装った。

 お得意のマネキンになり。



               4



 過去に何があったのか。

 大体の事情を彼は分かっていた。

 彼女の口から告げられた話。彼女の親友の火野雫から聞かされた話を含めて。

 だから、彼女は責任から自分を責めている。

 自分に彼女の気持ちを晴らすことなどできるだろうか。

 自信なんてなかった。

 しかし、書店で見た屈託ない笑顔。

 屋上で見せる柔らかな表情。

 それを普段から見たいと思った。


 二人しかいない放課後の屋上。

 いつものように、彼女は彼との一緒の時間を待ってくれていた。彼女の無垢な微笑みを見てしまうと、彼の緊張はさらに高まってしまった。

 以前に告白したとき以上に。

 容赦ない太陽が二人を照らすなか、それでも彼は口を開く。

 もう一度、自分の気持ちを伝えようと。


「私には、ほかに好きな人がいるの。でも、その人は別の子が好きで付き合ってる。だから、その人がその女の子と別れるまでの間だったら、付き合ってあげる」


 そんなの嘘よ。

 火野雫の嘆きが耳をかすめる。

 風が冷たい表情でこちらをじっと眺める、水原楓の黒髪をなびかせた。

 前髪が目の前を遮っても、彼女は動じない。

 そんなことは間違っている。

 もう自分を責めることはない。

 彼女の顔を見れば、辛そうで本音を言えない。

 いつか、無理をして嘘をつき続けなくてもいいようにしたかった。

 自惚れているかもしれない。

 独りよがりかもしれない。

 しかし、自分の気持ちには嘘をつきたくない。

 だからこそ、今はその嘘に付き合おうと彼は決心する。


「……うん。それでいいよ」


 だから、彼は嘘をつく。



                    了

 今回の作品はどうしても、ちょっと違う書き方にしたかったので、このような形にしました。どうしても、彼と彼女の名前を伏せた形で進んでみたかったんです。最後までややこしい書き方になってすいませんでした。この作品を読んでいただき、ちょっとでも楽しんでいただければ幸いです。

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