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更新中の息抜きとしての不定期更新です。
よろしければ、楽しく拝見していただきたいです。
こんな人はいなかっただろうか。
学校でも高いスクールカーストにいるわけでもないのに、徒党を組み、妙に注目を浴びる端っこにいる連中。呼ぶものは『ヲタ』呼べば、『よくわからないテンションの高い連中』と呼ばれる人もいた。
自分はどちらかといえば後者のグループだった。
ただ楽しくて集まっていたグループ。中学から高校までずっと一緒だった親友の支えがあったから、高校生活ではずっと一人ということはなかった。しかし、あまり人と関わることが好きではない自分にとっては、一人の時間の方が貴重で、望んで一人になりたい時は、親友が気を利かせてくれた。
親友には本当に頭が上がらない……。
……さて、そろそろ現実逃避はやめることにしよう。今この現状に親友様はいないのだ。大学に進学したのは自分一人。一人でなんとかしなければならない。
しかし……。
『……』
「……」
目の前で浮いているこの黒い物体を自分一人でどうしろっていうんだったんだよ?!
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大学に進学して早いことにもう一年。
理由もなく進学してもう一年。何も考えずに過ごしているうちにあっという間に月日が経ち、今ではすっかり七月。すっかり夏になっていた。
「…………アッツ」
ギラギラと輝く太陽の下、立ち止まりながら呟いた言葉は誰一人として答えるものはおらず、強い日差しにやられ猫背になりながらも、教室に向けて再び歩き始めた。
次の講義だけはどうしても参加したかったから……。
教室にたどり着くと、もうほとんどの学生が教室にやってきていた。自分も急いで講義の準備をしようと指定された座席に向かう。
その途中でとある学生グループに視線が向く。すぐに視線を逸らして座席に着くと、先生がやってきた。立っていた学生達はすぐに自分の席に着き、先生の講義が開始された。
講義が静かに進み、先生のバリトン声だけが教室内を響き渡る。
自分は先程たむろしていた席に向けてもう一度視線を向ける。視線の先には一人の女の子が授業を集中して聞いていた。
彼女の名前は水樹 雅。最初は言いづらそうなヘンテコな名前だったので、そこそこ印象に残っている。艶のある長い黒髪。優しげのある大きな瞳。綺麗な薄桃色の唇。アニメで言う清純派ヒロインのような彼女の姿は同じ高校でも人気が高かった。
見た目通り優しく、そして明るい性格から人を寄せ付ける魅力があり、多くの者に告白されたという噂を聞くことが多かった。しかし、その誰もが成功しないとわかってもいた。
彼女には同い年の幼馴染がいた。その彼も同じように底抜けに明るく、優しい性格をしていた。そんな二人の姿はとてもお似合いで、無理だとわかっていながらも彼女に告白していたのだ。
そんな彼らの勇気が自分には羨ましかった。自分にはそんな勇気がない。それどころから話す勇気すらなかった。出来て教室の端で彼女のことを少しだけ眺めるぐらい。話しかける勇気もそばに近づく勇気もない。それが自分である。
彼女の姿を少しだけ眺めた後、自分はすぐに授業に意識を戻した。自分のこの想いは絶対に叶わないとわかっていたから……。
講義が終わり、教室を後にする準備をする。
(この後は講義は何もないし…何か食べてから帰るとするか……。何食べよう?)
軽くお腹がなり、胃が空腹の合図を出したので、今日の昼食は食堂で食べる事を決め、学食のメニューを思い浮かべる。今日の昼食は食堂で食べる気満々である。
「ねえ?」
「ヒァ?! ……な、なに? というか、誰?」
頭の中を食堂のメニューでいっぱいになっている自分に突然後ろの座席に座っている女性が話しかけてきた。
「誰って…ひどい! 同じゼミのあかりだよ。柊 あかり!」
「へ〜……。それで、柊さんは自分に何かご用ですか?」
「うっわ〜。すっごい不機嫌。そんなに話かられたくなかったの?」
「イエ、ソンナコトアリマセンヨ」
不機嫌はデフォルト。気を張っていないと失言して酷いことさらっと言ってしまうので、気をつけるようにしているだけだ。
「ふ〜ん……。まあ、いいけど。それより〜。今の講義中、みやびちゃんのことをじぃーっと見てたでしょう?」
「…………さあ、何のことやら」
「もう、誤魔化しちゃって! このこの!」
「意味がわかりませんなあ。自分はこれから用事があるので、これで失礼します。さようなら」
「え? あ、ちょっと!」
自分は柊さんの制止を振り切って急ぎ足で教室を後にした。高校時代、強歩大会(別名:マラソン大会の歩きバージョン。走るのも可)のほとんどを徒歩でクリアした我が脚を舐めるな! (←残念ながら自慢できることではない)
柊さんを撒いて真っ直ぐに食堂に向かう。食堂と自分達の教室は隣接していないので、外に出る必要があるため、夏の日差しが辛い。
(思わず逃げ出してしまった……)
だが、そんなことよりも、柊さんとかいう人が水樹さんの名前を出したことでついつい逃げ出してしまったことの方が自分へのダメージは大きかった。
まさかバレていようとは……。
「はあ……」
『ため息を出すと幸せが逃げてしまうぞ』
「うるせぇ。自分がどこでため息を出そうと自分のか…って……」
? 自分は一体誰と話しているんだ?
俯いていた顔を上げて、声がしてきた方に視線を向けると、よくわからない真っ黒な物体がふわふわと浮かび、自分の方を見つめているように感じた。
自分は辺りをすぐに確認する。周りには自分と同じように学生がいるのだが、目の前の黒い物体の存在に気づいておらず、気付いているのは自分一人だけだった。
現状の整理が終わり、目の前の黒い物体と睨めっこを続けているが、個人的にはそろそろ面倒になってきたな……。
「……付いて来い。とりあえず、自分は腹が減った」
そう言って黒い物体の横を通り過ぎると、その黒い物体も自分の後を追って食堂へ向かった。
自分が頼んだ昼食は温そば。安いというのもあるが、食べやすく、風味のあるそば。この暑い時期ならばざるそばなのだろうが、食堂内は冷房が強く効いているので身体を冷やすざるよりも、あえて温そばにした。
事前に取っていた席に着席し、そばの麺を啜る。冷暖房で少し冷えてきた自分の身体にはちょうどいい温さであったが、かけていたメガネが曇るという王道をやってしまったので、少々恥ずかしい気持ちになる。
『ありがちだな』
「やかましい。……それで? あんたは一体何者なんだ?」
『ほう……。貴様はこの俺を人としてみるのか』
「こちらとしてもお前のような奴はありがちな存在だ。太古から存在する怪物。闇に落ちた神。世界を支配しようと目論む魔王。そんなものをあげればきりがない。面倒臭いから一括りに人間として扱った方が楽なだけだ」
『フハハ! 面白いな貴様! さすが、この俺が復活しゆる人間なだけはある!』
「復活?」
『そうだ! 俺の復活には、貴様のような奴でなければならない! 貴様のような強い欲を持つような人間でなければな!』
黒い物体がそう大きな声で、笑いながら言った言葉に自分は一瞬、水樹さんのことが頭を過ぎった。 それが自分の欲だというのなら、とんだピエロだ。笑う気も起きない。
『そういえば、まだ名乗っていなかったな。我が名はサタウス。貴様の予想通り、闇に落ちし魔神である』
「サタウスね……。自分は財前 結城。ここじゃあ、話をするのはなんだから、ひとまず、うち来るか? 近いし?」
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サタウスと名乗った黒い物体は言われるがまま自分の後を追って、自宅へとやってきていた。大学のある駅から二駅ほど離れた自宅。家から近いという理由(本当は少し違うが……)で通い始めた大学なので、夕飯等の心配は最初からしていない。
だが、今この時間ならば、母様は家でゴロゴロしているであろう。
そんな事を考えながら家の中に入ると、予想通りリビングでくつろぎながらテレビを見ていた。ついでに姉様も一緒だ。
「「ほはえり〜」」
「せんべい食べながら話すな。行儀悪い」
「あんたもいる?」
「……いる」
せんべいを食べながらくつろいでいる母様達から白い粉がついた丸い堅焼きせんべいをもらい、それを持って自分の部屋に向かった。その後ろにはサタウスも付いてきていたが、やはり二人はサタウスの存在に気付いているような様子はなかった。
自身の部屋に到着すると、無作法に持っていたカバンを投げ捨てる。そして持っていたせんべいを一つバリッと食べ、ベッドに腰掛ける。
「さて。それじゃあ、話し合いといこうか」
『なんだ? 急に態度がでかくなったな』
「まあな。ここなら人の目なんか気にしなくていいからな。……そんなことより、お前の目的をいいな。過去の話、今やろうとしていること。全部だ」
『全部か……。面倒だな』
「はよせい」
何かを誤魔化そうとするサタウスを一喝し、話を進めるように促す。サタウスは唖然となったのか、じっとこちら見ていたが自分が目を細めらと口早に語り始めた。
『俺は神が生まれるよりも前の時代に存在した願いを叶える魔神だ』
「神が生まれるよりも前ってことは……ギリシャ神話とか古代メソポタミアとか、そういう奴よりも前ってことか?」
『ほう。意外と歴史に詳しいじゃないか』
「え、あ、ごめん。ゲーム知識だからそんなに詳しくない」
『少しだけでもわかるなら上出来のようなものだ。話を進めるぞ』
「ああ頼む。それと、下手に取り繕うとするなよ」
『はいはい。……当時の俺は、自分の私利私欲の為にその力を使った。奪いたいものを奪い、殺したいものを殺し、壊したものを壊し続けた。愛に飢えた時はあの愛を貪り、相手の身体が壊れるまで愛し続けた。そんな俺に当時の俺と同じように存在していた神どもは脅威と感じ、この俺を滅しよと考えた。
バカな奴らだ。その程度でこの俺を止められるはずがないのにな』
「でも、負けたんだからそんな姿になったんだろう?」
『それはそれだ』
「どういうことだよ」
『まあ、とにかく、俺は神どもを全員返り討ちにし、残り二人となるまで全ての神どもを滅ぼしていった。だが、それまでの戦闘での傷がよほど深く蝕んでいてな。最後の戦闘で俺は自身の死を悟っていた。
そこで、俺はとある方法を思いついた。俺が死んだ時、その魂をのちの未来に転生する。その予定だった』
「でも、お前の力があまりにも強すぎたから、復活出来ず、魂のまま今を流れている…といった感じかな?」
『その通りだ。お前にこの俺の姿が見えているのは、この俺を受け入れるだけの欲望と精神力を持ち合わせているということだ』
「欲望ね……」
とりあえず、長いようで短いサタウスの説明を終えて、大した感情を持たなかったが、そんな自分に見合う欲望という言葉に首を傾げた。
「……これが自分の欲望なら、哀れ以外の何者でもないな!」
『? どうしたんだ、ユーキ?』
「いや、なんでもない……。というか、なんで愛称?」
『は? お前の名前は『ユーキ』だろ?』
「……もう、それでいいや」
サタウスは自分の名前を思いっきり間違えていたが、もうその点を注意する気にはならず、訂正することなくベッドの上に転がった。
「……ところで、本題ってこれから?」
『おお、察しがいいな。その通りだ』
そういって、ふわふわ浮かんでいたサタウスは自分の向かい側にある机に脚(?)をつけた。
『俺はこの俺に相応しい欲望と精神力を持っているお前の肉体が欲しい!』
「はあ?」
『一方的にお前の身体を奪っていいのだが、奪ったところで、貴様の魂がこの俺に適合しない!』
「まあ、普通に考えて、無理矢理身体を身体を奪われれば普通に対抗するわな」
『そこでだ! お前の肉体を貰う代わりに、お前のどんな願いでも叶えてやろう!』
「……」
『金! 愛情! 悲鳴! 性欲! どんな願いでもこの俺が叶えてやろう! さあ! 願いを言え!』
「……」
自分はサタウスの言葉に何も答えず、ベッドから起き上がり、部屋を後にした。
部屋から出て行くと、中にいるサタウスはうるさく喚いていたが、自分は耳を塞いで聞こえないふりをし、リビングに向けて歩いて行く。正直、サタウスの言葉に一切魅力を感じる事はなかった。
どんな願いでも…そう言われて思い付くことなんてないし、何かを望むようなものも対してなかった。
……部屋を出た今更思うが、水樹さんの愛情は…ちょっと興味があったかも……。
そんな事を思いつつ、リビングの前にまでやってくると、突然玄関のインターホンが音を鳴らした。母さんは誰かに出るように指示し、一番近くにいた自分が声を出して「自分が出るよ」と伝え、玄関へ向かった。
「は〜い……。……」
「あ、あの、こんにちは!」
「こんちは!」
「……」
玄関の扉を開くと、扉の先には今しがた思い浮かんだ水樹 雅さんの姿がそこにあった。
目の前に突然思い人が現れ、鼓動の音が早まるのを感じ、驚いたものの、隣にいる男が目に入りすぐに冷静になる。彼の名前は夏目 和樹。水樹さんの幼馴染で、これまた性格が良く、底抜けに明るい奴。
しかし、二人がこのタイミングでの登場は凄まじくわかりやすく、自分の機嫌を損ねていく。
「わる…すみません。ここに黒いぶったい……」
「帰れ!」
「は?」「え?」
「帰れ! 面倒ごとを一日に次々と持っちくんな! サタウスとか神の軍勢とか自分が知るか! 出直して来い! 最低限日を跨いだから来い! 出落ちにも程があんだろうが!」
「「………」」
「ふん……」
自分が言いたい事を言い放つと、二人は呆然と立ち尽くし、自分はそんな二人を前に踏ん反り返った。
気持ち的にはすごくスッキリしたが…ひょっとしてこれ……八つ当たりにならないか?
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「アハハ!」
「ちょ! そんな笑う事ねぇだろう、永久!」
「いやいや、普通笑うって! だって、好きな奴に向け「帰れ!」って言い放ったんだろ? バカ以外の何者でないって」
「うにゅ……」
「相変わらず気持ち悪いな、その凹み声」
「きも?!」
時間的にはかなり遅い時間。親友の新城 永久の父親が営んでいる閉店間際のカフェにやってきていた。自分の隣ではムシャムシャと賄いの焼き飯を無心に食べ続ける黒い物体のサタウスがいた。
あの後、二人を無理矢理帰らせ明日大学で少し話そうと言うと、二人は妙に驚いた顔を浮かべ、渋々納得して帰っていった。そして自分が夕食を食べ終え部屋に戻ると、サタウスが『腹が減った』という一言のもと、急遽閉店間際のトワの家が営んでいるカフェで賄いを貰うこととした。
事情を説明したトワはいとも容易く納得し、自分が作った賄いを出してくれた。その時に「お前が作らなくて正解だった」と言われ、何も言い返せなかった。
「それにしても……本当に何かがあるんだな。俺の目には全く見えないけど、ひたすらに賄いがどんどん減っていってる」
「ごめんな。こんな時間に……」
「気にすんな。事情が事情っぽいし、それにこんな事、ただの友達には相談できんわな」
「そう言ってもらえると助かるよ。一人で抱えるにはちょっと厄介な案件だったから」
『何が厄介だと、ごらぁ!』
「飯食ってる時に大声出すな、行儀悪い」
必死になって飯を食べていたサタウスがこちらを向いて、怒鳴ってくる。口中に含んでいたお米が飛んできそうな勢いだったので、向きを正させて再び食事を再開させる。サタウスはそんな自分の指示に従って、再び食事を再開した。
「それで? これからどうするつもり?」
「うん……」
「サタウスに関する話は本人に聞けたけど…それがどう影響するかは分からずじまい。やってきた二人からでも少しは話を聞いておくべきだったと思うぞ」
「うん………」
トワの言う通り、今更ながら…それは本当に失敗したな……。いきなり展開がどんどん進んでいくものだったから、はがいくなって、ついつい怒ってしまった。面倒事…というよりは、自分に腹を立ててしまっていて、それを誤魔化す為についつい怒鳴ってしまった。自分の事となると、イライラが抑えられない自分の悪い癖だ。
ちなみに、トワの場合は自分が怒ってもなお続ける為、こちらが黙る他手立てがない。
「…………」
「……さっきから何考えてるわけ?」
そうトワが尋ねてくるか、自分は妙な不安が自分を支配していた。
もしもこの予感が当たっているのなら……。
「うん……。色々考えてみたんだけどさ」
「うん」
「自分……、試しに明日、水樹さんに結婚を申し込んでみようと思う」
「………はあああああ???!!!」