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排中律と永久機関(草稿)

排中律について考える。排中律とは、ある命題は真であるか偽であるかどちらかである、という論理学の法則である。しかし排中律は「この計算は停止するか停止しないかのどちらかである」と解釈すれば、計算機科学の停止問題そのものである。そして排中律は弱い形の選択公理だということが分かっている。だとすれば、これまでの議論を考慮すると、選択公理(排中律)、波動関数の収縮、停止問題(計算可能性)は等価であると主張したくなる。


議論をもっと明確にしよう。


以下のような対応表を考える。「<==>」という記号は単なる表上の区切り記号である。


可逆計算 <==> 不可逆計算


量子力学(量子計算)は可逆計算であるが、この宇宙では不可逆計算しかできない。これは以下と同じ意味である。


エントロピー一定 <==> エントロピー増加


左項は純粋状態を仮定している。フォン・ノイマン・エントロピーはユニタリ変換で不変なので、その意味でエントロピーは一定である。厳密には、エンタングルメントが起こるとエントロピーは変化する。射影測定を行うとエントロピーは増加する。そしてフォン・ノイマン・エントロピーは密度行列で書けて、密度行列は射影演算子として表現できる。これは以下のようにも書ける。


永久機関のある世界 <==> 永久機関のない世界


「量子コンピュータと量子通信1」(ミカエル・ニールセン他著、オーム社)3.2.5節では、量子計算は原理的にエネルギー消費なしで計算可能とはっきり書いてある。ただしこれは永久機関が今すぐに製作可能という意味ではない。理論的には可能だが、射影測定を行うとフォン・ノイマン・エントロピーは増加するので射影測定はできない。測定ができないと計算結果を取得できない。そして射影演算子はエルミートでありユニタリでない。つまりユニタリ性を保存できなくなる。従って測定なしで量子計算を行うなら永久機関は(理論上は)実現可能という意味である。


これは以下のようにも書ける。


計算が停止しない世界 <==> 計算が停止する世界


右項は正確には、計算が必ず停止するか、あるいは時間が有限であるため無限回数計算ができないという意味である。


これは以下のようにも書ける。


排中律のある世界 <==> 排中律のない世界


これはつまり、


形式主義論理 <==> 直観主義論理


ということである。さらに圏論の用語を使用すれば、


モノイド圏 <==> デカルト閉圏


ともいえる。圏論的量子力学は、モノイド圏上で展開されるからである。やや粗い議論ではあるが、おおよそ、このような対応が考えられる。正確には、


対称モノイダル圏 <==> ダガーコンパクト閉圏


となる。あるいは次のようにも書ける。


対称モノイダル圏 <= 双対 => ダガーコンパクト閉圏


以下のように書くとさらに明確になるだろう。


可逆計算 <= 波動関数の収縮 => 不可逆計算


あるいは次のようにも書ける。


永久機関のある世界 <= エントロピー => 永久機関のない世界


あるいは次のようにも書ける。


永久機関のある世界 <= 熱力学第二法則 => 永久機関のない世界


あるいは次のようにも書ける。


計算が停止しない世界 <= 計算可能性 => 計算が停止する世界


そして当然、以下のようにも書くことができる。


形式主義論理 <= 排中律 => 直観主義論理


ここで「<=●●=>」という記号は、●●という要素あるいは変化を加えることで、左項から右項への変換が起こる可能性がある、というくらいの意味である。


再度書くと、


計算が停止しない世界 <= 計算可能性 => 計算が停止する世界


ところでこの文は以下のようにも書ける。


不動点コンビネータが停止しない世界 <==> 不動点コンビネータが停止する世界


不動点コンビネータは不動点構造を持つ。また対角線論法は背理法を使うが、排中律を排除すると背理法は使えない。そしてゲーデルの不完全性定理は対角線論法を使用している。


ここでまず、逆数学ではゲーデルの完全性定理はWKL_0と同値である(逆数学では弱ケーニッヒの補題のことをWKL_0と呼ぶ)。次に逆数学では選択公理、WKL_0、ブラウワーの不動点定理は同値である。選択公理を排除すると不動点が無く再帰関数が書けないため、対角線論法は非成立となる。そして選択公理は右随伴の存在と同値なので、選択公理なしだとダガー関手なしとなり、スペクトル分解不可となる。(実はCauchy-Peanoの定理はWKL_0と同値であることがすでに知られている([DOI]https://doi.org/10.4288/kisoron1954.32.3)。つまり逆数学では選択公理、WKL_0、(実数関数の)常微分方程式の解の存在定理は同値である)


つまり選択公理、対角線論法、波動関数の収縮は、形式主義、構成主義、直観主義など全ての数学上で同値かは議論の余地があるが、少なくともRCA_0上では同値に近い関係にある、と言えそうだ。RCA_0とは再帰的内包公理のことで、逆数学の基本体系である。計算可能性数学に類似している。


ここまで書いてくると、この文章の最初に書いた主張は、それほど荒唐無稽ではないと思うがどうだろうか。ところでこれまでの考察から、量子力学から熱力学第二法則を導出することができないことが分かる。なぜなら、何の仮定もせずに対称モノイダル圏からダガーコンパクト閉圏が導出できれば、それは即ち等価であるということで、それはありえないからである。従って量子力学から熱力学第二法則を導出することは数学的にできない、という結論を得る。


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