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トムソンのランプとハイパーコンピューター

 この連載は前章で終了するはずであった。しかし、暗黒通信団のエイプリルフール企画で十位に入ってしまい、これが刺激になって一連のツイートを書き込んだ。この文章はそのツイートをまとめたものである。2019年のエイプリルフール企画のリンクを以下に示す。


 http://ankokudan.org/d/d.htm?uso19-j.html


 ここで入選(?)したのは以下のツイートである。


 せっかくなので暗黒通信団のエイプリルフール企画に参加しておこう。トムソンのランプって複素論理を導入すれば解ける。波動方程式の形式で書ければ、エルミート演算子の固有値を多値論理に対応させればよい。固有値が複素数ならば、決定不能になる。その場合はエルミートでなくユニタリ演算子になる。(https://twitter.com/Mania2Sdr/status/1112665541989167105)


 このツイートはエイプリルフール企画なので、当然虚偽である。そもそも波動方程式に書けるかどうかは不明で、複素論理学などというものは存在しない。しかし測度論では複素測度が存在するので、ある意味、微妙な記述にしてある。


 ここからトムソンのランプが解けるハイパーコンピューターが作れないか考えだした。それが以下のツイートである。


 今思いついたのだが、可算無限個の量子ビットをエンタングルメントさせれば、ハイパーコンピューターが実現できるんじゃないか? ゼノン機械みたいな仮想的なものだが。ただこれも誰かが考えてそうだけど…(https://twitter.com/Mania2Sdr/status/1113393164360933376)


 以下次のようなツイートが続く。


 カリフォルニア大学バークレー校の野村泰紀教授が量子マルチバース理論を提唱している。ここまでくれば、マルチバース間量子コンピュータ(正確にはマルチバース・エンタングルメント・量子コンピュータ)までもう少しだと思うが…(https://twitter.com/Mania2Sdr/status/1114051450856824832)


 もちろんゼノン機械同様、エンタングルメントの機構はブラックボックス。ER=EPRでも何でもいい。おそらくハイパーコンピュータだと思う。少なくともチューリング還元は無理…だろう。(https://twitter.com/Mania2Sdr/status/1114052927453196288)


 BQPがPSPACE以下ならハイパーコンピュータじゃない。ただBQPの正確な定義を知らんのでなんとも。EXPSPACEと同じくらいでないと。やはりダメか?(https://twitter.com/Mania2Sdr/status/1116041854909173760)


 待て。BQPはコペンハーゲン解釈のはず。マルチバース間エンタングルメントは前提じゃない。マルチバースなら時間的制約は排除される。少なくともPSPACEと同等なら希望がある。つまり量子チューリング機械ではなく、その拡張モデル。量子チューリング機械の可算無限集合みたいなイメージで。(https://twitter.com/Mania2Sdr/status/1116053814790909952)


 このあたりの展開は量子スプレマシーの実証が終了しないと何とも言えない。可算無限集合の冪集合は非可算無限集合であることを考慮すれば、それほど飛躍しているとは思えない。ただし、かなり論理を省略している。まずマルチバースが可算無限個存在するかは不明である。さらに宇宙破壊コンピューターや時間遡行コンピューターを知らないと展開を追うのは厳しいだろう。この文章はアイデアの提示が目的なので、厳密な検証はしない。もしかすると、すでに誰かが同様のアイデアを、arXivのプレプリントで公開しているかもしれない。その場合はこの文章の意味は消失する。プレプリントがないなら、いずれarXivに発表できるかもしれない。いずれにしても、ハイパーコンピューターは量子重力理論と関係すると思われるので、議論を続ける。


 この連載では、宇宙は何らかの計算モデルによって構築されている、という立場を取っている。宇宙の計算モデルが量子コンピューターなのかは不明だが、計算モデルである以上、計算量理論が適用できるはずだ。そして宇宙を計算できる複雑性クラスが存在するはずである。


 ところで宇宙の基礎理論は一般相対性理論を満たすというのが、一般的意見であろう。ところがアインシュタイン方程式を解析的に解くことは、一般にはできない。シュワルツシルト解などのいくつかの厳密解は、あまりにも初期条件を理想化しすぎていて、現実には存在しない状況を仮定している。従って数値解析で解くしかない。数値解析でアインシュタイン方程式を解く方法を、数値相対論と呼ぶ。しかし数値相対論にはFormulation問題と呼ばれる課題があり、数値計算すればうまくいく、というわけではない。


 数値計算できればよいとする立場は、つまりは近似値でよいという立場である。理論値が求められなくても、近似である程度分かればよいということだ。どうせ工学的には、測定には誤差が伴うのだから、理論値が分からなくてもよいとする立場である。今はそれでよいかもしれない。しかしプレオンが発見され、さらに精度が要求されることになればどうだろう。この過程が無限に続けば、いずれ数値計算は不可能になる。クォークが究極の粒子であるかは不明なのだ。理論値が求められない問題は、連続体濃度につきまとう難題である。分かりやすい例は円周率である。


 πは実在するのだろうか?


 例えば地球上のどのスーパーコンピューターでも、πの全小数展開を計算することはできない。計算するには無限のメモリーが必要だからだ。そしてわれわれは、日常では3.14を使うことで満足している。現実世界では存在しないにもかかわらず、存在するかのように扱っている。それが円周率である。結局、この種の問題の起源は、0.99999…は1と同じなのかという問題に行き着く。


 この種の無限を扱う思考実験をスーパータスクと呼ぶ。トムソンのランプもスーパータスクの一つである。スーパータスクは、ゼノンのパラドックスが起源である。ゼノンのパラドックスは超準解析と呼ばれる数学理論によって解決したという意見があるが、超準解析には批判もあるため、解決していないという意見もある。批判的意見は超実数という無限小の概念は実在しないとするものだ。


 自然科学で実在しない抽象概念を議論しても意味がない。複素数はその有用性が認められた希少な例である。観測できない対象は科学では扱わない。非可算濃度(連続体濃度)にはスーパータスクがつきまとう。結局、非可算濃度は人間には手の届かない世界なのかもしれない。イデア界と呼んでもいい。こうした立場を数理哲学では数学的プラトニズムと呼ぶ。数学的プラトニズムは学派の一つにすぎない。現在でも数学の実在性については最終的結論は出ていない。そして可算濃度と非可算濃度をどうにかして結合しない限り、量子重力理論は実現しないだろう。だとすれば、量子重力理論の実現には、数そのものの定義・実体の再構築が要請されることになる。


 ところで計算量理論の立場から考察を続けると、別の結論が考えられる。非可算濃度つまり実閉体の理論は、EXPSPACEで決定可能とされる。ということは、NP困難よりも難しいということだ。当然のことながら、量子コンピューターの計算クラスであるBQPでは、少なくとも、現実的な時間では計算できない。


 これは何を意味するか?


 宇宙は量子コンピューターでは計算できないことになる。つまり、一般相対性理論が正しく、宇宙が実閉体の理論を含むのなら、全宇宙の情報はいかなる量子コンピューターでも計算できない。これはシミュレーション仮説の否定を意味する。数値相対論に関しては、アインシュタイン方程式の数値計算は、本質的には計算困難ということになる。もちろんこれは数値相対論を否定するものではない。決定問題にはさまざまなレベルがあり、「解が存在しない」という結論も決定問題には違いないからだ。一方でシミュレーション仮説が成立するためには、ハイパーコンピューターを用意するか、一般相対性理論を実閉体を含まない理論に修正する必要がある。BQPに属するように修正できれば、シミュレーション仮説が成立する可能性はある。


 このように考えると、数学の実在性についても、別の側面が見えてくる。私は、PSPACEより上の複雑性クラスは現実世界には存在しない、などというつもりはない。ただどうやら、われわれの脳は、EXPSPACE以上の複雑性クラスを扱うことができるらしい。数学の実在性を、複雑性クラスで説明する時代がまもなく来るかもしれない。







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