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ホログラフィック原理

 ホログラフィック原理とは、宇宙は平面に投影されたホログラムのようなものであるという理論である。主に超弦理論の研究者が提唱している。注目すべきは、ホログラフィック原理の一つである、AdS/CFT対応と呼ばれる定式化である。これによって厳密に、ある特定の宇宙はブラックホールに投影されたホログラムとして数式化された。われわれの住む、この宇宙もホログラムかどうかは現在のところ結論は出ていないが、可能性はある。


 ここから導かれる結論は、宇宙がコンピューターならブラックホールもコンピューターと見なせるのではないか? ということだ。実際ブラックホールコンピューターは提案され、世界中で議論されている。ならば、前出の拡張版カリー=ハワード同型対応はブラックホールコンピューターにも適用されるべきだろう。


 問題は「ブラックホールコンピューターの計算クラス=量子コンピューターの計算クラス」は成り立つのか? ということである。この答えによって、本論の結論は決まるといえる。シンギュラリティが起きるには、計算能力は高い方がよいに決まっている。ブラックホールコンピューターの計算能力は量子コンピューターより高いと考えられている。もちろんこの答えは目下研究中であり結論は出ていない。本論での考察を以下に述べる。


 まず、前回述べたカリー=ハワード同型対応を拡張する。

 すなわち、宇宙を量子計算機と仮定するなら、カリー=ハワード同型対応も拡張すべきであろう。そうであるなら、以下の対応が予想できる。まず前回では、



 量子計算機==> 宇宙


 量子ビット==> 素粒子


 量子プログラム==> 素粒子の相互作用


 量子プログラムの実行==> ?



 と見なせるとした。これをさらに拡張する。


 まず、記号論理学あるいは数学基礎論の基本定理として、ゲーデルの不完全性定理がある。カリー=ハワード同型対応が宇宙まで拡張できるなら、不完全性定理に相当するのは何だろう?

 つまり、



 記号論理==> 不完全性定理


 計算機科学==> 決定不能性あるいは停止問題


 宇宙==> ?



 ということだ。決定不能性から不完全性定理は導出可能である(Lispを使えば簡単に証明できる。検索すればコードは簡単に入手できる。チャイティンの証明が有名である。対角線論法よりこちらの方が分かりやすいだろう)。そうであるなら問題は不完全性定理は、宇宙では何に対応しているのか。


 なぜ、不完全性定理に注目するかというと、不完全性定理がある限り、コンピューターには能力的限界(計算不能性)があり、シンギュラリティは起こせないと思われるからである。

 物理法則は全宇宙内で同一であるから、この宇宙は不完全性定理の成り立つ同一公理系内と見なすことができる。従ってどんなコンピューターを製造しても、シンギュラリティは起こらない。


 以前は「不完全性定理=不確定性原理」という対応関係が成り立つとしていたが、修正したい。不確定性原理はフーリエ変換に起因するものであり、この議論においては本質的ではない。不完全性定理に対応するのは不確定性原理ではない。しかし宇宙は記号論理学と同一の限界があるのは確かである。なぜなら決定不能性は量子コンピューターにおいても成立するからだ。量子コンピューターにも解けない問題は存在する。例を挙げれば、量子コンピューターにも解けない暗号、耐量子暗号が研究されている。既に実装されてテストされている段階である。


 従って「ブラックホールコンピューターの計算クラス=量子コンピューターの計算クラス」あるいはほぼ同値、と見なせるのである。


 結論が出たので、不完全性定理の対応物については追加事項として「補足としてのカリー=ハワード同型対応」で述べることにする。対応関係は以下のようになる。



 記号論理==> 不完全性定理


 計算機科学==> 決定不能性あるいは停止問題


 宇宙==> 非局所性



 詳細は「補足としてのカリー=ハワード同型対応」を参照して頂きたい。


 不確定性原理は何に由来するかについては、ここで述べておきたい。


 まず不確定性原理は場の量子論からは導出できない。なぜなら、ゲージ場におけるくりこみ理論は、観測値を代入して計算しているため、そもそも波動関数の収縮を回避している。朝永振一郎自身が「くりこみ理論はカンニングみたいなもの」と発言している。従って場の量子論は論拠にできない。


 数学的には、不確定性原理はフーリエ変換から導出できる。この意味は短時間フーリエ変換では区間を無限にせず有限にするとする。すると周波数に不確定性が現れる。これは当然であって、区間を観測時間と考えると有限でなければならない。フーリエ変換とは、変数を時間から周波数に変換する変数変換であるから、正確な計算のためには本来無限区間が必要である。現実には無限区間などありえないため、不確定性が出現するのである。


 フーリエ変換の不確定性原理は、量子力学の不確定性原理と見なしていいのだろうか?


 量子力学の不確定性原理は交換関係から導出できる。しかし、そもそもシュレーディンガー方程式にド・ブロイの物質波を導入したのが不確定性の原因と考えられるから、これはユニタリ性と考えられる。フーリエ変換もユニタリ変換だが、これを同一視してよいかは不明である。しかし、本論ではこう結論しておく。量子力学が物理量を求めるのにフーリエ変換を使う限り、


 (フーリエ変換の)不確定性原理=(量子力学の)不確定性原理――(1)


 と見なせる。


 これで「ブラックホールコンピューターの計算クラス=量子コンピューターの計算クラス」の答えを出せたと思う。結論はほぼ同じであろうという予想だ。従って、ブラックホールコンピューターではゲーデルの不完全性定理は超えられない。従ってシンギュラリティは起こらない。これが本論の結論である。


 ◇


 ここから(1)を使ってさらに考察してみる。(1)の関係は、実際の実験結果と理論値が一致しているという事実があり、補強される。つまり、


 この宇宙はデータ圧縮にフーリエ変換を使っている


 という実験事実がある。ここで考えたいのは、世界は脳で処理できるには、データが多すぎるのではないか? という問題だ。脳という小さなサイズで、感覚から入る全ての情報を処理できるほど、世界は単純だろうか? つまり、脳における情報処理の計算時間の爆発、組み合わせ爆発を避けるため、脳もフーリエ変換でデータ圧縮をしているとしたら、


 観測=フーリエ変換によるデータ圧縮


 つまり、


 波動関数の収縮=フーリエ変換


 と見なせないか? と主張したいのである。これはいうまでもなく、ペンローズの量子脳理論の亜種である。フーリエ変換(によるデータ圧縮)を脳の機能だとするのだ。


 ここからテーマは時間の矢に移る。時間の矢の原因は(1)である。不確定性原理によって、時間の矢は生じると考えられる。なぜなら短時間フーリエ変換の不確定性原理は、


 ΔxΔω>=1/2――(2)


 と書けて、観測時間を小さくすれば周波数は無限大になる。周波数はド・ブロイの物質波よりエネルギーと等価だから、エネルギーが不確定つまりエントロピーが無限大になる。これが熱力学第二法則である。ということは脳の情報処理の不確定性が、時間の矢の原因ということになる。またこうもいえる。


 フーリエ変換=ユニタリ変換


 であるから、時間の矢は不確定性原理より生じる。さらに極論すれば、意識とはデータ圧縮という意味で、脳のフーリエ変換であると解釈可能である。


 ところで、上記の(2)は、実は量子系では成立しない。量子系ではエネルギーは無限大にならず、有限値だからである。時間は演算子ではない、といわれる所以である。

 しかし、別の議論も可能である。つまり、観測という行為自体が、論理学の自己言及であり、自己言及を行う限り不完全性定理が適用されて、停止問題が生じると考えるのである。

 停止問題を解こうとしても、計算時間は不明である。これは言い換えると、脳はデータ圧縮を行い無理矢理解くしかないということだ。観測行為を行う以上、量子系であろうと古典系であろうと、停止問題が生じるためデータ圧縮が必要でフーリエ変換が適用される。そこでフーリエ変換の不確定性原理より、脳内で時間の矢が発生するというメカニズムである。

 量子系では成立せずに古典系では成立する。フーリエ変換自体は古典系で適用可能であるから、一応議論は成立しているように思える。脳は実閉体を処理できるほど高機能ではない。脳の機能モデルをチューリング機械と等価と考えるなら、上の議論は妥当に思える。単に、古典系と量子系の結果が異なる場合、量子系の結果が優先されるという原理を仮定すればよい。


 今まで述べてきたのは時間とエネルギーの不確定性原理の議論である。時間の矢の起源を不確定性原理に求めるにせよ、不完全性定理に求めるにせよ、この二つに何らかの対応関係があるらしいことは分かった。この結果に満足することとする。この章での考察はいわゆる人間原理の考え方に近い。ガリスの数学原理も想起させるが、それについての考察は別の機会に譲る。


 ここまでの結論を繰り返すと「量子コンピューターでもブラックホールコンピューターでもシンギュラリティは起こせない」となる。



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