準備としてのカリー=ハワード同型対応
まず、カリー=ハワード対応から始める。カリー=ハワード同型対応とは、記号論理学と計算機科学の対応関係である。以下のような対応関係が存在する。
記号論理あるいは数学基礎論==> 計算機科学あるいはチューリング機械
命題==> 型
証明==> プログラム
証明の式変形==> プログラムの実行
さらにこれを、量子コンピューターにまで拡張する。そうすると以下のようになる。
チューリング機械==> 量子チューリング機械
型==> 量子ビット
プログラム==> 量子プログラム
プログラムの実行==> 量子プログラムの実行
この拡張が可能かどうかは、量子計算機(量子コンピューター)の計算クラスがチューリング機械の計算クラスと同じか、による。現在のところ結論は出ていないようだが、本論ではこの拡張が可能であると仮定する。
さらにこれを拡張したい。ここで考えるのは「宇宙は量子コンピューターである」として、以下のようにする。
量子計算機==> 宇宙
量子ビット==> 素粒子のスピン
量子プログラム==> 素粒子の相互作用
量子プログラムの実行==> ?
本論の目的は、拡張されたカリー=ハワード同型対応を手掛かりに、シンギュラリティの実現性を論じることにある。「宇宙は量子コンピューターである」という仮説は、現在多くの研究者によって支持されている仮説であり、予想である。よって本論でもこれを支持して拡張する。
記号論理あるいは数学基礎論とは、数学の構造そのものであるが、数学にはゲーデルの不完全性定理という、強い制約条件がある。カリー=ハワード同型対応より、コンピューター(チューリング機械)にも同様の制約条件があり、それが停止問題であり、計算不能性である。次章では不完全性定理と量子コンピュータとの関係について論じる。