僕が死んだ事を君は知らない
僕は死ぬために、護るために生まれてきた。
僕の人生について語るために君には二つ、知っておいてほしいことがある。
一つ目は僕には十年間好きだった女の子がいたこと。
二つ目は僕には「人の死を予知する能力」があるということ。
では僕の物語を語ろうか。
あれは僕が小学校に入りたての頃だった。大人しくて控えめで弱気な僕が教室をキョロキョロと眺めていると、教室の端で一際異彩を放つ彼女を見つけた。
高坂舞だ。
彼女は小学生ながら美人で、学校中の誰もが一目置いていた。僕も例外ではなく、彼女に恋をした。初恋だ。
クラスの連中は皆彼女の気をひこうと、ある者は意地悪したり、ある者は彼女に優しくしたりしていた。
一方僕はと言うと、極力彼女に関わらないようにしていた。
弱気な性格もあったが、それよりも壊してしまうのが怖かったのだ。
彼女は美しくもあるが同時に脆く壊れやすかったのだ。それはまるで美しく彫られたガラス細工のように。きっと僕が触れてしまったら彼女の美しさは途端に壊れてしまうだろう。自意識過剰だったがそれほど僕は彼女に心を奪われていたのだ。
小学4年生くらいの頃だっただろうか、僕に能力が発現したのは。
僕は死期が近い人間を見ると、その人がいつどのように死ぬのかが分かるようになった。
最初はもちろん怖かった。しかし中学に上がる頃にはもう慣れた。
次に話すのが僕の最後のエピソードになるね。
あれは僕が彼女と同じ高校に入った頃。彼女は高校でもちやほやされていたね。
そんな彼女をいつも通り遠くから見ていたのだが、ふと彼女に死のデータが過ぎった。その時は驚いたが、これは錯覚だ。もしくはバグだと思い現実逃避した。
だが翌日もそれは消えなかった。どうやら本当に彼女の死期が近いらしい。僕は大いに悲しんだ。彼女と共に死ぬことも考えた。データを読むまでは。
そこにはこう書かれてあった。
『高坂舞。享年16歳。20XX年5月10日8時20分52秒、○○町3丁目5-2にてストーカーに刺されて死亡』
僕はこれを読んだ瞬間、彼女の代わりに死ぬ覚悟をした。
美しい彼女は校外でも一目置かれており、ストーカーなどは少なからずいた。しかし、実害はほとんど無かったのでスルーしていたのだ。
当日、僕はいつものように制服に着替え、いつものように家を出た。違うことといえば、少し早めに家を出たことだ。
僕は彼女に見つからないところで犯人を待ち伏せた。そして件の時間の少し前、犯人は現れた。帽子を目深被りマスクをしていて手はポケットに突っ込んでいる。恐らくポケットの中にナイフが入っているのだろう。
犯人は彼女を見つけるとナイフ片手に助走し始めた。
僕は咄嗟に彼女が角を曲がるのを見ると犯人の前に立ち塞がった。幸い誰もいない。
ズブリ、とナイフが僕の心臓部に突き刺さった。僕の胸から血が勢いよく溢れ出る。
良かった。誰も悲鳴を上げていない。きっと彼女は僕が君の代わりに死んだことなど一生気付かないまま幸せな人生を送るんだろうな。そして僕の人生は幕を閉じた。
どうだった? 僕の話は君の期待に応えられるものだったかい? そう、それなら良かった。
え? その後彼女がどうなったかって? そんなの知らないよ。最初に言った通り僕は彼女に関わらないように生きてきたからね。
それに、理想は理想の中だけで終わらせるのが一番楽だろう?