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緑の国  作者: 佐久間
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彼女の背中が森へ消えたちょうどその時、生暖かい風とともに例のウサギが足元に帰ってきていた。もう一度抱き上げようとしゃがみ込むと、その前に逃げられた。まさに脱兎のごとく。というか脱兎である。

彼女と違い僕は狩るつもりはないが、このウサギの行く先は気になる。ウサギもどきを追いかけることにした。どうせこの広さを歩いてこいというのだから、モミジさんも別に急用ではないだろう。目の前のこのコンクリートの箱の中にモミジさんがいるかもしれないが、大丈夫だ。多分。ちなみに僕はモミジさんがどういった人か知らない。何故モミジの呼び名を得ているのかさえ知らない。

ウサギは皮肉にも少女とは逆方向の地平線へ向かう。一歩、というのかは分からないが一つの動作で進む距離が小さいのでどれだけ回転が早くてもたまに小走りをすれば見失うことはなかった。ウサギは草の根を突き進む。

そういえばここには花がない。少女が身につけていた花はどこで咲いていたものだろうか。色も鮮やかで形も崩れていなかったからおそらく切って間もないものであるはずだ。しかしあんなに種類豊富な花、そもそも花一輪すら見つからない。見回しても緑ばかりだ。あとはコンクリートの箱。

しばらくウサギを追いかけると先ほどとは別の森が見えてきた。先ほどの森は高く細い木が生えていたが今度のは深い緑の木々だ。それに森の上だけ厚い雲が浮いている。少し不気味。ウサギはさっさと奥へ進んでいく。そういえばお腹がすいたな。普段は消費しないカロリーを消費したせいで朝食を抜いたことが今に響いている。お金はあるので誰かにさえ会うことができれば食べ物を譲ってもらえるかもしれない。しかし今から向かう森に人が住んでいるようには見えなかった。

森に入ると予想通り暗かった。ここにも花は見当たらない。黒に近い木々ばかりだ。それに動物もいない。足元を見ると小さなアリや毛虫のような昆虫は見かけるが哺乳類爬虫類その他脊椎動物の姿は全く見当たらない。絵本なら熊との出会いの場が森のはずなのに。

冗談はともあれ現実の森はこんなものなのだろうか。僕はいわゆる世間知らずなのだから。自分の世間知らずを感じつつ、森の中で新しい建物を見つける。コンクリートの箱とは別でお屋敷と呼ぶような建物だ。ツタが外壁を覆っている。なんだか魔女や吸血鬼なんかが住んでいそう。


自分の八畳間の生活を思い出す。雨が降った日は本棚の本をよく読んでいた。どれもサルさんが僕のために持ってきてくれたものだった。

サルさんは僕が暇をしないようにいろんな本を定期的に運んできてくれていたが僕は特に妖怪やアンデッドが出てくるような話が好きだった。ファンタジーだ。

逆に歴史や政治、思想の本は好きではなかった。外の世界と関係のない自分にとってはそういったジャンルもある意味非現実的でファンタジーではあるが、人の心を惑わすような悪意が感じられるから。

本について語っては見たものの別に読書家なわけではなかった。なぜなら一日中雨が降る日なんてそうそうなかったからだ。


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