ただ一言すら、言えないままに
「来ちゃった」
さぁさぁ、と木々を揺らして私の白いワンピースの裾を揺らす風は夏に合わせてほんの少し生温い。
でも夏特有の爽やかさが感じられる。
「可愛い可愛い後輩が来たんですよ。喜んで下さいよ」
夏が好きになれなくなってからだいぶ経つ。
今でも夏が来ると少しだけ苦しくなる。
手土産を私と彼との間に置いた。
花束は持ったままで彼に語りかける。
「もうさぁ、先輩がいないと暇で暇で仕方ないんですよね。と言うか寂しいかもしれません。あぁ、でも、そんな風に言ったら先輩まだ意地悪く笑うから嫌ですよねぇ。
いつになったら戻って来ますか?そろそろ本当にすることもなくなって来ちゃったんですよ。私だって待つのは好きじゃないんですから。
先輩も言ってたでしょう?俺を待たすな、って。先輩ってばもう少し可愛い可愛い後輩を大切にすべきじゃないですか?
俺様的なくせに、意外とヘタレだし。あ、今では先輩みたいな人を打たれ弱いドSって言うんでしたっけ。
……あぁ、もうっ、本当にッ」
本当に――。
ベラベラと考えもせずに口から出てくる言葉をただただ吐き出して、返って来ない答えを一人で待ち続けている。
どこかでセミが鳴いていて、ジワジワだかミンミンだか知らないけれど生きていると叫んでいた。
死にたくない、という叫びなのかもしれないけれど。
半開きになった口から言葉は出て来ない。
セミの声で耳が痛い、頭も痛い、割れそうだ。
冷たい冷たい石の下で眠る彼は、私のことを待っているだろうか。
待っていて欲しい。
伝えていないことが沢山ある。
言いたいことが沢山ある。
今日は彼が好きだと言ったコンビニスイーツを買って来たのだ。
甘ったるい生クリームに酸っぱみの方が強いイチゴの乗ったショートケーキ。
彼の好きだったもの。
いつもいつも眉間にシワを寄せている印象のある彼が、その眉間からシワを消し去る瞬間を見れる魔法のアイテムだった。
それから彼が好きだと言った花を持って来たのだ。
夏に咲いて太陽に恋する向日葵。
グングンと伸びていって空を目指す姿が好きだと言っていたのが、今でも鮮明に思い出せた。
それから彼を愛した私。
いや、少し違う。
今でも私は彼を愛している。
生温い風が吹いては私の髪を、ワンピースを、花を、袋を、全てを揺らして去っていく。
そしてそれは私の中の虚しさを倍増させて、そうして私を押し潰そうとした。
潰して崩して壊して、私も彼の場所に行きたい。
「……――何で、何で一人で逝っちゃうんですか。私何かッ、言う事……あったんじゃないんですかッ!!」
ねぇッ、答えてよ!なんて冷たい石にぶつけたとしても変わらない。
何もないのだ。
求めた答えは返ってこなくて、伝えたかった『好き』は伝えられなくて、聞きたかった『好き』も聞けない。
一人にしないで、先輩――。