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外部脳1  作者: 宇井2
9/33

祭り

すっかり円盤が閉じて、しまうと、人々はまた移動を始めた。入って来たところとは反対側の細い坑道に数人ずつのグループになって間隔をあけて入っていく。エーヌはヒロシと同じグループになって、坑道に入った。すると、箱状のものがあり、エレベータになっていたのだ。そのエレベータで上昇すると、地上に到達した。そこは、まわりを山に囲まれた盆地のような場所であった。地下で見たパイプの末端が多数突き出ている。高い壁に囲まれているため、風が穏やかで、雪はあるが寒さもあまり感じない。久しぶりに空は晴れわたり、周囲の雪をかぶった山々が重なりあって、この盆地を囲んでいる。小さな小屋がいくつも建っている。そして中央には、半分雪と氷に埋まった大きな倉庫のような建物もある。


全員が上りきると、連続して太鼓が叩かれた。そして、皆が倉庫のような建物の前に集まり、火が焚かれ、祭りが始まった。倉庫の中には、食糧が冷蔵されている。野菜や果物、米、肉。そして、衣服、燃料。毎年、夏の間に皆で収穫し、この天然の冷凍庫に蓄える。そして、真冬の一番厳しい時期に、食糧も乏しくなる時期に、皆でここに来て、それらを取り出して冬を過ごすという。倉庫は冬には雪と氷の中に完全に埋まってしまうので、扉を開くには、地下のあの場所から、一度に熱風を地上に送り出して、倉庫の入り口の氷を溶かす必要があるのだ。地下での不思議な行為の意味はとうの昔に忘れられてしまっているが、生きるための重要な儀式として受け継がれてきたのであった。そして、この祭りから始まり、真冬の数か月をここで過ごす。春になれば、今度は雪の解けた山間の道を通って里の自分の小屋に帰り、畑仕事や大工仕事といった作業に戻る。


しかし、この場所まで生産物を運ぶのは老人たちだけでは無理であるし、老人たちが生産できる量も限られるはずだ。そして、不思議なことに保存されている物の中には、エーヌがドームで使っていた標準食糧や薬品類、そしてここでは生産できないはずの固形燃料も含まれていた。その事情は、すぐに分かった。祭りのときに、ヒロシが男を連れてきた。若い男である。しかもドーム内の標準語を話す。老人しかいないと思っていたエーヌは驚いた。暗い坑道では、見分けがつかなかったのだ。他にもいろいろな世代の男や女そして子供達もいてエーヌの周りに集まった。彼らはエーヌと同じようにドームで生まれたが、様々な理由でドームの外に居場所を求めた人々である。彼らは老人たちとともに里の集落に住み、生産の方法を教わり運搬の手助けをしていた。そして、彼らが教えてくれたのは、ドームの世界政府は公には存在しないはずのドーム外集落に対し、ひそかに定期的な物資の配給を行っているということだ。それが、あの食糧や薬品、固形燃料類である。ドーム内では全く知られていないし、その理由もわからない。祭りは夜まで続き、皆で飲み、歌い、踊った。白く輝く星がちょうど真上に来たとき、一人の老人が立ち上がると、ざわめきが止みあたりに静寂が広まった。昔の先人が山道を行くときに歌ったという、不思議な節回しの歌が歌われ、祭りは終わった。


エーヌは仲間を得て、この集落で生活を始めた。春になれば、皆と里に下り、教えられながら畑や森で働く。それを倉庫に運ぶ。冬になれば、坑道に下り、一緒に円盤を回して、熱風を地上に送る。若い世代の間には、子供も生まれてくる。寿命を迎えた老人が亡くなれば、丁寧に弔い谷の上の墓地に埋葬する。こうして何回目かの冬を迎えたとき、ヒロシはエーヌを連れて、坑道を下りた。いつもの円盤の部屋への道ではない。その頃には、エーヌはこの土地の言葉をほとんど理解していた。「どこに行くのですか」「記憶の部屋だ」と先を歩くヒロシが答える。


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