坑道の先にあるもの
皆が集まっている坑道に、かすかに振動が伝わってきた。振動は次第におおきくなり、はっきりとリズムを刻んでいることがわかるようになる。ドーンドーン、ドドドーン、ドーンドーンドドドン、あちこちで話し込んでいた老人は、のそのそと立ち上がり、音の方へと歩いていく。エーヌもヒロシに促されて立ち上った。皆は広い坑道から分かれた細いトンネルに入っていく。トンネル内の灯は点々と奥へとつつながっているが先は見えない。下っているようにも思える。音はさらに大きく響いてくる。
行きついた所は、青白い光に満ちた高い天井を持つ広大なホールであった。壁は厚いアクリルガラスで覆われて全体が青白い光を放っている。入って左手に少し高い舞台が作られており、その上で、太鼓がたたかれていた。集合の合図であり、ある行動を起こす時間が来たことを知らせていたのだ。それにしても寒い。この空間は氷河の地下深くに作られているのだ。氷が放つ青白い光が壁を透過し、ホール全体を湖の底のように染めている。天井には無数の太い金属のパイプが設置されて、地上につながっているらしい。そして、床の中央に直径が数十メートルある金属の円盤がある。円盤は中心から放射上に複数の板に分けられ、周囲には金属の棒が等間隔に据え付けられていた。
舞台の上では、太鼓はやんでいた。そして、舞台にはエーヌを助けた老人たちが運んでいた白い小動物と青い野菜が供えられている。一番年をとっていると思われる老人が腰を折りながら前に進み出て舞台にむかって一礼する。ほかの老人たちもそろって一礼をする。そして、太鼓のドンという合図とともに、集落のすべての老人たちが円盤の周りの金属の棒をつかんで、よろよろと同じ方向に動きはじめる。ぎしぎしという音とともに円盤の放射上の扉が一枚づつ開き始めた。
次々に開かれる扉の間から、強烈な光が放射し天井に向けて突き刺さる。円盤のすべての扉がひらかれた時に、ゴオーという轟とともに、円盤の下の穴から天井のパイプに向かって猛烈な熱風が吹きだした。放射する光はオレンジ色の無数の矢のように直進した。
あまりの強烈さにエーヌは動転したが、老人達は慣れているように頭を床に擦り付けてしのいでいる。そして数分後に、強烈な熱風と光の放射は弱まり止まった。円盤の下は、深い円筒形に掘られていた。その底に今は穏やかに光る球形の物体が設置されている。球面は無数の細かいメッシュに区切られて、それぞれの区画にはチップ状のものが埋め込まれ球面全体を覆っている。その一つ一つがオレンジ光を放射していたのだ。これは何なのか、エーヌには超集中型のコンピュータに見えた。しかし、この地に住む人々には、あまりに不似合な装置なのだ。
少しすると、またドンと太鼓がり、次の瞬間に、先ほどのパイプから円筒内部に向かって、凍えるような冷風が猛烈な勢いで吹き込み始めた。雪片か氷か、きらきらと光る小片が、周りにも舞っている。その風もしばらくして、ピタと止んだ。すると、老人達はまた金属の棒にしがみつき、太鼓の合図とともに、今度は逆回りに回り始めた。円盤の蓋が徐々に閉まっていく。最後の1片の蓋が閉じると、円筒からでるオレンジの光が遮断され、ホールは前と同様青い光の中に何事もなかったように座り込む老人達の姿だけになった。