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外部脳1  作者: 宇井2
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雪の中の村とトンネル

雪の中には、人により踏み固められた道ができている。老人達は、曲った腰を伸ばしたり、膝をさすったり、お茶をしたりとゆっくり進む。周囲の木々の枝は氷に包まれ、太陽の光できらめいている。1時間も歩くと、林を抜けて山あいの道にでる。すると、何も無いはずの雪の中から、一人、二人と一行を迎えにでてくるものがある。男も女も皆老人だ。ドーム移住最後通告からもう数十年たっている。そのときに応じなかった人々である。ここは、小さな山に囲まれた平地であった。道の周りは畦が作られ、かつて、畑か水田であったような場所だ。今は雪で一面が覆われ、わずかに高い畦部分が雪野原を四角い区画に分けている。小山の縁に、エーヌが助けられた小屋と同じような小屋がいくつも雪に埋もれている。あちこちの小屋から出てきた人は、皆、小さな木製の箱橇を押しながら集団に加わり、よろよろとついてくる。雪に隠されているがエーヌの夢の中で見た世界が目の前にある。

この移動は衛星から不思議なゆらめく動きとして分析されたであろう。そして、その動きはいつも徐々に薄くなり画面から消えてしまうのだ。それは、集団がこの先の坑道に皆が吸い込まれていくからである。坑道は鉄道のトンネルであった。レールはすでになく、度重なる異常豪雨と豪雪により、切り開いた崖が崩れて巨大な岩が入口を覆い隠している。トンネルの入り口は外からは分からない。しかし、老人達は積み重なった大きな岩を迂回しながらゆっくり近づき、わずかに開いたトンネルの口に這い行った。トンネルの中は暖かかった。トンネル内には、例の金属の箱とトンネルの天井部分に突き刺さるパイプが並んでいる。オレンジ色の炎が光っている。天井に一列に細長いライトが取り付けられている。トンネルの坑内は広く、何人かの人がすでに到着していた。老人達はおもいおもいに場所をとり、腰をおろした。久しぶりに会う人がいるのか、あちこちで、杖にもたれて、顔を近づけて話し込んでいる。

老人たちはエーヌの肩くらいまでしか背丈がない。顔立ちはエーヌと似ている。ドーム内では人種という区別はないし、あらゆる分野で標準化を目指したが、何万年も前から伝わった遺伝子の特徴は数百年では消えない。皆エーヌを見ても驚くような様子はなく、笑いかけてくる。助けてくれた老人達に連れられてエーヌも腰をおろした。名前をヒロシと名乗った世代の若い老人はエーヌと話すことができた。エーヌは旧世代言語を学び少し覚えていたし、相手が初期の新世代標準言語をいくつか知っていたからだ。公にされていないドームとの交渉があるらしい。ドームから出されたものが何人か住んでいると言う。エーヌが抜けてきたパイプは、かってドームの内外をつなぐ通路であった。しかし、ドーム内移住計画を終了後は、ドーム内への人の流入を止めるために世界政府は入口を閉鎖した。しかし、出ることはできたため、ある種の人々をドーム外へ出すために使われた。しかし、その行為は公表できるものではなく、記録にものせられず、設備だけ残った。エーヌが抜け出して寒さのため倒れていた地点は、定期的にあの老人達が見回っている場所であった。そうした人々を助けるために。


人が集まったトンネルで、これから何が始まるのか。


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