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外部脳1  作者: 宇井2
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混乱と収拾

事件が起こってから、時間をおかずに、世界政府が原因を発表した。ドーム内の環境を管理する制御装置類が負エネルギーの流入により、誤動作を起こした。美しい演出と皆が感動したドーム全体を満たした淡い青い光は、数世紀前の統治者が、人々の思考を1つの方向に操作するときに使用した特別な信号を乗せていた。当時と比べると外部脳の機能は各段に複雑になっており、現在はその信号で人々に恣意的な共有価値を仕込むことはできなくなっていたが、1組の人間の暗号鍵を交換してしまうという結果を起こすことになった。

外部脳の性能と機能が各段に進歩しているということは、人々は生体脳では、検索と推測および判断しか行わず、個人的な記憶、知識を外部脳に依存するようになっていた。外部脳そのものがプライバシーですらある。一時、外部脳を生体脳に埋め込む案が議論されたが、統治者にとってはエア内に集中化する方が都合よかったため、立ち消えになった。

世界政府は、すぐに対策を打ち出した。個人の持つ情報の不整合を計測するアルゴリズムを開発し、「私は私であるか」チェックシートを全世界の人々に配信する。

結果は2つしかない。私は私であるか、私は私でないか。私が私でないという結果を得た人々には2つの道しかない。自分の外部脳が誰のところにリンクしているかを探しだすことは困難であるし、また元に戻す方法は理論上不可能である。そのため、新しい外部脳を受け入れて生きていくか、外部脳を使用不能にする手続きをするか。

ほとんどの人は他人のプライバシーを受け入れて生きることを選んだ。自分に対する不信や違和感は時間が解消してくれるだろう。早く新しい外部脳と生体脳との関係を構築していけばよい。切り離した場合、幼児程度の知識しか生体脳にはなく、この高度の情報社会では生活が不可能となるからだ。しかし、どうしても自分の違和感を、他人の外部脳を受け入れることができない人々がいた。その人々は病んでいった。そして、世界政府がそのような人のための施設を設置した。

ごくわずかの奇跡的に交換を免れた人々はどうだったろう。彼らは自分の幸運を喜んだはずだ。しかし、身近な人々や親友が自分を忘れている、いやまったく知らないという状況に放り込まれ、激しい孤独感に襲われた。どんなに嫌な奴でもいい、自分を知っている人間がいて欲しい。

子供達はどうしたか。幼児期はまだ外部脳の本格使用ははじまっていないため、また幼児特有の適応力のため、影響はほとんどなかった。しかし、ほとんどの親が自らの子供すら認識することができなくなったため、至急、世界政府は子供たちを特別な養護施設に収容することを決定した。

そして、もうひとつ、この事件の影響がおよんでいない場所がある。ドームの外の世界だ。

世界政府の公式発表では、ドーム外に人は住んでいないことになっている。地球環境の劣悪さは極限に達しており、ドームという人工環境に人間は暮らしている。人口集中による環境悪化を防ぐため、都市を巨大なドーム内に建設し、空気、水、エネルギーを完全に管理して快適な環境を維持している。ドーム外では、資源は枯渇し、廃棄物で満たされ、激しくなった気候の変化により、猛烈な嵐、熱射、寒波に常にさらされていた。世界政府下で居住地は自由であったが、しだいに人々はドームに移動し、ドームからの廃棄物も加速して増え、ドーム外は更に荒廃していった。そして、世界政府はドームを維持するために、ついにドーム外を切り捨てる決定を行ったのだ。すなわち、ドーム外は人間の歴史から外され、見捨てられた。「ドームの外」は存在しないのだ。

複数の衛星から地球をモニタしているデータが、常時、世界政府の社会管理システムに送られてくる。データは自動的に解析され、それによって計算されたドームへの外乱がドーム保護システムに入力される。時に、このデータに風雨や竜巻などの自然現象とは異なる揺らぎが検出されることがあった。たとえば、周囲よりわずかに高い温度の影が少しづつ形を変えながらも1つになって動く、意思をもっているような動きを見せる。群れが移動するような。この揺らぎは誰の目にも留らない。なぜなら、ドーム外の世界は機構上存在しない訳であるし、このシステムは無人で動いているのだから。

ここで、疑問がわき上がる。世界政府はどうなっているのだろうか。世界政府に関わる人々も、この事件の影響外であるはずがない。どのようにして、正しい判断と決断ができるのだろうか。

ドーム内では、外部脳を受け入れた人々の努力で、なんとか通常の状態に戻りつつあった。しかし、ほんの少しのずれ、違和感がどのようにしても残る。やはり、前の社会とはちょっと違う。それがじわじわと、陰となって世界の底の部分に広がってきていることも事実であった。


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