333の追跡
333という数は様々な意味を持っていた。333人目の研究者がいるという意味にもとれた。当日風邪をひいて一緒に写真を撮れずに、右上とか左上とかに小さくのせるべき333人目がいたのかもしれない。あとで載せるのを忘れられたのだろうか。または、この333人目の研究者が大きな秘密を知っていて、今回のような事態が起こったときに、容易にAIに見つけ出されないように存在を消すように仕組んだのかもしれない。もし、AIが発達初期の段階で、あの白いページをみても何の反応も示さないであろう。人間のミスとしか判断しないはずだから、隠れとおすことができるかもしれないと考えたのかもしれない。
AIの制限を解除したときに3人必要であった。この3も何等かの符合がありそうである。その秘密の1つはヒロシが教えてくれた。AIの解除時の3つの光る輪にそれぞれが指を差し入れた。あのスイッチはもう一度指を差し入れれば、AIの制限を復活できる機能があるという。しかし、今となっては、あのホールに戻ることはできなくなっている。AIが自らの安全のため、出入口を塞ぎ、二酸化炭素を満たし人が入れないようにしている。
次なる可能性は、333人目がいることを願って探し出すことだ。幸いまだAIはこの資料については気づいていない。エーヌはあのページを生体脳内に記憶すると破り捨てた。この研究者か研究所の情報を探すには、シーの外部脳能力に頼るしかない。しかし、これは非常に危険でもある。世界政府のAIはシーの行動を注目している。シーが外部脳機能を利用しはじめたらAIに察知され、その内容もチェックされてしまうかもしれない。AI解除前は、個人の情報を見ることは禁止されていたし、機能的にできなかったが、今となっては、そのくらい何でもないことであった。事情をしらないドームから来た他の人に問いただすことはもっと危険だった。
ヒロシはすぐに皆を集めて祭りをすることにした。AIは生体脳しか持たない外の人を操作することはできない。そのため、彼らが祭りで見せる高揚したざわめきや足音を感知すると学習できずに揺らぎが大きくなる。さらに例の太鼓の音と振動はもっとAIの判断能力を削ぐのだ。火がたかれ、村のありったけの太鼓が谷の広場に集められた。祭りの開始の合図にシーが太鼓を叩く。他太鼓も一斉に叩かれ、大きく小さくドンドントトトンと周りの山にこだまして響いた。
喧噪に紛れて、ヒロシ、エーヌとシーはシーの外部脳の情報を探した。研究所や世界政府コンピュータ開発に関する資料はドーム内では消失してしまっていたので、シーの外部脳にもなかった。3というキーワードで探して見る。3丁目、3階、300年、3月3日と。その結果、博物館というキーワードがマッチした。シーが太鼓について検索したときに、展示保管場所の記録に博物館地下3階展示室A-3と記載があったのだ。博物館は既に廃墟になっている。博物館の展示物はすべて映像データとして取られ共有されている。虫や植物、動物剥製、鉱物標本、土器、民具、人工衛星、旧式コンピュータ、黒い電話機、ミイラ、人体模型、ありとあらゆるものが博物館にはあったが、ドーム建設時に、なぜそうした時代の遺物の実物を保持する必要があるのかという議論が持ち上がった。腐っていくだけのものを腐らせないようにする意味、崩れていくものを維持しようという意味がどこにあるのか、触れることや、空間的に認識することがなぜ必要なのかと言うのだ。反論できる者はいなかったし、必要と考える者もいなかった。当然ドーム内に移管されることもなく、データとしての保存が完了した時点で閉鎖され放置されたのだ。
研究所と何らかの関係があるかもしれない。とにかく何でもよいから切っ掛けとなるものを調べるしかない。博物館の場所はヒロシが覚えていた。今生活している谷を沢沿いに上流にいき、尾根へ出る。尾根をたどり、山を二つ超えると眼下に、弓なりの美しい海岸線を持った広大な平野が広がる。かって大きな都市があった場所である。海の水位が上がってしまい、平地の半分は海の下に沈んでしまった。そして、海からの猛烈な風雨にたびたび襲われ、地下に向かって都市機能を伸ばしていた街に、常に水が流れ込むようになり、移転せざるを得なくなったのだ。水に浸かる前、この平地には小山が点在していた。クスノキに覆われた公園になっていたり、斜面を切り崩し道路を通して、団地が建てられていたりしたが、それは、古代人の巨大な墓であったそうだ。その墓の上に建てられた博物館や美術館は、海が押し寄せてきた時も半分水に浸かりながら島のように残ったのだ。都市は北部の山を切り開いた台地に移転し、その後、ドームとなった。
まだ、冬が明けたばかりである。山越えは厳しい旅になるが、3人は急いで出発しなければならない。