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文筆業

 ライターってのは、誰にでもなれる。

 火を付ける方じゃなくて、文章を書く方な。

 文章を書くのに才能はいらない。

 もちろん、得意不得意はあるだろう。

 しかし、文章の制作技術なんて練習である程度どうにでもなる。

 そして文章を書くのが面倒くさいと思っている人は一定数いる。

 そんな奴らに営業をかけて、仕事をもらって、文章を差し出せば、それで立派な「ライター」だ。


 ライターになるのは誰でも出来るが、ライターで居続けるのは誰にでも出来る事じゃない。

 ライターで居続けるのに必要な才能が3つある。

 

 文章を書き続けても苦にならない才能。

 他の人が思いもつかない発想をする才能。

 人脈を作る才能。


 このどれか一つでも抜けると、ライターで居続けるのに努力を要する。

 

 俺は、3つの才能の内2つ目、発想力が無いタイプのライターだ。

 足りない発想力は人脈と文章量、そして足で稼ぐしかない。

 俺はフリーライターだ。

 日々歩きまわり、日々取材をする。

 そうやって地道な努力で集めたネタを元に文章を書く。

 つまり足りない発想を取材で補填、外注している様なもんだ。

 決して楽ではないが、好きな事を仕事にしているんだ。文句は言えない。



 俺は今、ある案件を追っている。正確には、追っていた、か。

 ある町で「頭部がスイカになる」という突拍子もない事件が起きているという噂があった。

 その話を聞いてすぐ、俺はその町に向かった。

 万が一その事件が本当だったら大スクープだ。

 しかし、それは本当に万が一の話だ。

 頭がスイカになる、なんて奇妙な事態が起きているとしたら、俺なんかじゃなくもっと大物のライターが出張っているだろう。マスコミも動く。

 俺にとっては、その話が嘘でも本当でも関係がない。

 俺にとって足りない部分、発想力を埋め合わせるネタさえ見つかれば良いのだ。

 頭がスイカになる、だなんてやなせたかし的な発想の噂話がまことしやかに流れているのだ。

 噂話ってのは、伝播する過程で尾ひれがついて、本当に突拍子もない話に変化する。

 俺が求めるのは、その突拍子の無さ。

 人々の伝言ゲームの中で生まれる、神の見えざる手の働き。



 しかし、俺がその町の取材で得たのは、俺が望んでいた様な情報では無かった。

 確かにスイカに関する噂話は流れている。

 流行に敏感な高校生だけでなく、小学生からご老人までスイカに関わる話を知っていた。

 でもそれは、日本全国どこでも聞けるような、スイカの種を飲み込んだらスイカが生えてきただとか、耳に種が入ったら耳が聞こえなくなるだとか、せいぜいそんなレベル。

 俺は子どものころからスイカの種は飲み込んでいるが、腹痛すら起こした事が無いぞ。

 頭がスイカの人物の目撃情報はいくつかあったが、どれも確認は取れなかった。

 唯一確認できたのは、この町のゆるキャラが、スイカをデフォルメしたような頭部を持っている事だけだ。


 完全にに無駄足。

 交通費を無駄にして、得たものはほとんどない。

 美味しいスイカを安く食べられた事以外に、まったく良い事のない取材だった。

 自棄になって、その町に居る間は三食スイカを食べた。

 本当に美味しかった。



 しかし、俺はひょんなことから「スイカ頭の人物」を発見する事に成功した。

 朝起きて鏡を見たら、そこに居た。

 俺の頭がスイカになっていた。

 あと、体がムキムキになっていた。

 原因は不明。思い当たる節は、スイカを食べすぎた事くらいだ。


 自分の頭部がスイカになった日は、一日中落ち込んでいた。

 落ち込んでいたと言うよりも、途方に暮れていた。

 こんな頭では取引先にもいけない。恥ずかしくて外に出られない。

 これからどうしようかと頭を抱えると、その頭がつるつるしていて、なおさら俺の気分を沈ませる。


 取材しようにも、これでは目立ち過ぎる。

 というか、俺が取材対象みたいじゃないか。


 


 ……俺が、取材対象?

 そうか、俺が、俺自身を取材すればいいのだ!

 俺は今日からスイカ・フリーライターだ!

 発想力なんて必要ない。

 俺が、俺自身が発想力の枠を飛び越える実例になったのだ。


 もし、この手記を読んでいる人の中に、ライターになりたいやつがいたら覚えておいてくれ。

 ライターを続けるのには、才能が大切だ。

 しかし、才能が無かったら別の所で補えば良いのだ。

 そう、俺のように頭部をスイカにするのも良いだろう。


 もし、俺以外に頭部がスイカになったフリーライターや作家がいたら連絡をくれ。

 結成しようじゃないか、スイカ・フリーライターの同盟、『日本SF作家クラブ』を。


SF=スイカ・フリーライター


日本SFサイエンス・フィクション作家クラブとは一切の関係はございません。

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