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76.『懐く犬』/『演奏会』
『懐く犬』
友人が飼っている犬は、初対面の人間を警戒せず物凄く懐く。僕が近づくと股を何回もくぐり抜け、胡麻でもすっているかのように靴に顔を擦りつけてくる。
「俺の犬、人懐っこいんだ。可愛いだろ」
まあな、と僕は答え、
「誰にでもいい顔する所はお前そっくりだよな」
と言ってやった。
『演奏会』
雨がしとしとと降り始めた。
「おっ、時間だ」男はウクレレを持ってきて窓際のイスに座った。
男は小さくポロロンと鳴らす。
雨はサーとシャワーのような音を鳴らした。
雨が強くなって屋根を叩く音がしてくると、軽快にポロロロロンと鳴らし、床に置いたお皿にピチョンと水滴が落ちる。