72/124
72.『自転車レース』/『唇を奪う仕事』
『自転車レース』
僕は自転車の二人乗りを支持する派で、例えばレースの時、一見すると後ろに人を乗せるなんて自殺行為だけど、好きな子が体を密着させていたら、その子の声、体温、柔らかい体の感触が伝わってきて、まるで補給所を乗せているかのように頑張れるんだ。
だから、僕と付き合ってくれ。
『唇を奪う仕事』
出かける準備を整えた彼女は、唇を僕に押しつけた。習慣でほとんど毎日行う。赤々と血の通う唇が温かい。彼女のにおいと共に、朝食のにおいがわずかに香ってくる。ほんの少しだけれど。
上唇と下唇をさらに湿らせた彼女は、僕を化粧台に置いた。彼女の唇の乾燥を防ぐ仕事は終わった。行ってらっしゃい!