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64.『空間』/『壁越し』
『空間』
風でそよそよと揺れる白いカーテン。適度に室内に注がれる陽光。
テレビの横に飾られた、親子マラソンのトロフィー。
倒れたカップからコーヒーが染みている新聞。絶えず鳴り続ける、掛け時計と固定電話の無機質な音。
誰も帰って来ることのないリビング。いつもより静かな空間。
『壁越し』
あたしは歌うのが大好き。だから家で曲を聞くと自然と歌ってしまう。癖なのだ。
今日、とうとう隣人の男性が壁ドンした後部屋を訪ねてきた。防音性ゼロだからなぁ。ドアを開けるとやはり怒った顔をしている。
「あ、あの……」としどろもどろしていると、
「同じ曲ばかりで飽きるんだよ。別のにしろ!」