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48.『おいしい』/『頭は守った』
『おいしい』
「おいしい」という夫の言葉に、胸を抉られた。
普通なら感涙するだろう。「不味い。こんなものが食えるか」といつも食卓に残されたのだから。
今日は手間暇かけた。最後の晩餐を快く楽しんでほしかったためだ。
夫は床に倒れて喉を掻き毟り、そして動かなくなる。どうして……? どうしてよぉぉ!?
『頭は守った』
お父さんと河川敷でキャッチボールをしていた。
「浩介、これを取ってみろ!」そう言うと空へ向かって投げた。フライか。昨日は頭に当たってこぶが出来たから、グローブでしっかりガードする。
天高く昇ったボールは、太陽に吸いこまれて見えなくなり、地面に落ちて僕の股間に炸裂した。
「うおお……」