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47.『おはよう』/『さようなら』
『おはよう』
あいさつすべきだった。
短い言葉でいい。名前を呼ばなくったっていい。ただ、声をかけるだけでいい。通学路には、僕と彼女しかいない。十分耳に届くはずだ。
一瞬で良かった。足を止めて少しの間振り返ってくれただけでも、角から突っ込んできたトラックに跳ね飛ばされることは無かっただろう。
『さようなら』
声をかけた。初めて彼女に話しかけた。重苦しいお通夜の席でなければ、どれだけ良かっただろう。
遺影の彼女は、少し悪戯っぽい少年のような目で笑っていた。正面の笑顔は見たことが無かった。いつも横顔だった。
なぜか笑みがこぼれた。黒服の大人達の視線が集まる。涙が落ちた。