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111.『義眼』/『退職』
『義眼』
友達と、泣けると評判の映画を観に行った。案の定、彼は泣いていた。あれっ。僕は彼の目を覗きこむ。
「君、右目からしか涙が出てないね」
すると彼は苦笑して、
「左目は義眼なんだ。泣く時は、左目の分まで右目が涙を流してくれるんだよ」
彼の右目からはたくさんの涙がこぼれていた。
『退職』
退職の挨拶でマイクの前に立った女性は涙ぐんでいた。彼女はメモを懐から出した。
「この会社ではとても大切な事を学びました。残業代が支払われる事、そして部下に責任を押し付けない事……。やっと辞めれて嬉しいです。今までお世話になりました!」
その女性は会社で伝説になった。