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110.『女房』/『入口調査』
『女房』
寒さで凍った畑の土を踏みしめると、ザクッザクッと葉野菜を包丁で切るような音がした。
遠くに見える山の麓まで伸びる畑は、三か月前まで男の物だった。彼は離農した。右足を引きずって歩く。温かい朝日が畑を照らす。女房を亡くした時と同じくらい寂しい。
男は杖をついていない方の手で涙を拭った。
『入口調査』
とある青年が、中年男性に声をかけた。
「すみません、簡単なアンケートよろしいですか?」
「何のマネだ?」中年男性は疑うような目を向ける。
「ズバリ、問題の傾向を教えてください」青年はメモ帳とペンを持って興奮気味だ。
「いいから席に着きなさい。テスト始めるぞ」先生は教室に入った。