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102.『食糧』/『猫で良かった』
『食糧』
女友達から電話だ。
『備えって大事よね』
「は?」
『だってさ、もし何かあった時に食糧がなかったら、飢え死にするかもしれないのよ? テレビでやってたわ』
「何だいきなり? まあ、正論だけど」
『やっぱりそうよね! 明日の遠足楽しみ!』
「……おやつは300円までだからな?」
『猫で良かった』
ぼくは猫に生まれてよかった。
暑いとき、あの子はうちわで扇いでくれるし、寒いときは体温と匂いでいつまでも温めてくれる。
本当人間に生まれなくてよかった。
だって、ぼくはもうすぐ彼女とお別れ。その時がきたらきっと、顔がくしゃくしゃになって涙が止まらなくなるだろうから。