プロローグ
あの忘れることの出来ない出来事は俺たちの研究から始まった。 俺は南大西洋のアセンション島の世界脳研究所においてクレムリンの指示により他のメンバーと共に脳神経の研究を続けていた。労働環境は別に悪くはないのだが、研究目的を研究所全体で果たさなくては休暇も取れないので研究員の大多数はそのことについて不平を言っていた。 しかし、数時間前に遂に研究所の研究目的が達成されたのだ。そのことを研究仲間でもあり親友のデヴァルクから聞いたときは我が耳を疑った。
「本当か。本当にか。あの<Everyone Epual Projekuto>(みんな平等計画)が成功したのか。」
「ああ、本当さ。さっきアトラソフ所長が言っていた。まあ詳しいことは研究室で話すのはなんだから向こうの食堂で話そう。」
俺たちが食堂へ向かう間なぜか人に会わなかった。それに食堂にも人がいなっかた。別に人がいなくてもロボットが調理はするのだが、大低一人か二人は当番がいるのだがいなかった。食堂の中は別に普通だがただ一ヶ所海を望める場所がありそこが俺達の指定席だった。デヴァルクと俺はサンドウィッチとコーヒーを食べながら話をした。
「しかしよう、なぜ<みんな平等計画>のようなものに統率人民委員長は軍事費を削ってまで金をだしたんだ。表向きには対テロリスト用の思考読心機の研究とか言ってるが、テロリストなんてもうほとんどいないぞ。しかも統率力が全然ない。ほんと理解に苦しむよ。本当の事言っちゃえばいいのにさ。」
「そんなことは歴史の教科書を読めばすぐわかるだろ。なんなら今教えてやろうか、オオザキ。」
「そんなこと分かり切っている。そのせいで俺達研究者はこんな人里離れた所にいるんじゃないか。現政権は27年前に革命により、政権を奪取した。そのころは世界中の国で貧富の差がますます広がり大多数の人類が資本主義に絶望し、代わりに社会主義を目指そうという運動が大きくなり、その運動を世界レベルで指揮し革命を成功させたのが統率人民委員長であるハインリンヒ・ヴィーラントだ。すると国連に全ての権力を集め、<世界社会主義連邦>に国名を変えた。」
「そうだ。そして社会学者や経済学者なんかにソ連で社会主義が成功しなかった原因を研究させた。すると2つの主な原因が判明した。1つめは当たり前だが上層部の腐敗だな。そこで賄賂を防ぐために政治家や官僚は大洋の小島に閉じ込められた。俺達研究者もその巻き添えを食らったからこんな大西洋の小島に居るんだ。で、2つ目はだ。根本的だが知能の差だ。やっぱり頭の出来の違いが仕事や恋愛、いろいろなところでででくる。すると馬鹿な奴らは労働意欲をなくして仕事をしなくなる。それを解消するために俺達は<みんな平等計画>を研究していたんだ。」
「だがよ、いくら脳内ネットワークを活用しても働きたくないというのが大多数の意見だからさ、そのせいで逆に働かなくなるじゃないか。」
「そういう不真面目な意見より真面目で社会のためになる意見を優先するようになっている。それにまだ実験をしていないからそういう意見が優先される危険性がある。もしそうなった時のために国民の精神状態を今のままにしておいて予測をたてやすくしておくんだよ。」
デヴァルクとの話が終わると同時に放送が鳴った。
「総員直ちに第一会議室に集合せよ。繰り返す、総員直ちに集合せよ。」
俺達は第一会議室に向かった。計画が終了したので祝賀会かと思っていた。しかし第一会議室に着くと皆暗い顔をしていた。これから所長のターナー・ソロスが議会からの報告を発表するようだが、この空気の悪さではまず吉報は期待できないだろとデヴァルクと話をしているうちに発表が始まった。
「今回の<みんな平等計画>については大変ご苦労だった。なので前々から予告していた通り、警備員と一部の職員以外は半年の休暇が与えられる。」
なんだ、休暇はもらえるじゃないか。それならなぜ皆暗い顔をしているのだろう。所長は続けて、
「しかし皆も承知のように前回の科学予算会議において月面基地の予算が予想よりも2倍程度増加したため、別の計画の予算を削ることになり結果私たちの<みんな平等計画>の後期精神検査の予算が全てカットされた。よって今後休暇を取る職員はこちらで提示した地域に向かい、その地域の人間の精神状態を調査してほしい。以上だ。」
だから皆暗い顔をしていたのか。しかしそれ以上に俺は暗い気分になった。一方デヴァルクは心待ちにしていたスイスでの休暇を台無しにされたとあって、鬼のような顔をして今にも所長に飛びつきそうだった。その後俺達は各々地域を提示され俺とデヴァルクは日本の中国地方の調査担当になった。俺達はまだいいが貧乏くじを引いた奴はシベリア一帯の担当になっていた。
そして俺達は日本の中国地方に向かった。