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第二話 目指せ学園アイドル!③

久々の更新部分が一番アレなところですいません……

この作品はノーマルな恋愛モノです!

……説得力がなさすぎるorz

ちょっと最近手が空いているので、早めの更新を目指してみます。

 日々は流れ、うれしたのしい夏休みに突入した。

 由貴にとっては、全く嬉しくない夏休み開始である。

 じりじりとアスファルトを焦がす太陽光線。蝉の声。本来なら家でダラダラと一日ゲーム三昧で過ごす予定だったというのに。由貴は額の汗を拭い拭い、星乃城学園へとやってきていた。

 教室のドアをガラリ、と開ける。

 悲しいくらいに教室内はがらんとしていた。やはり一年生一学期の期末テストから赤点まみれなのは、由貴くらいなのか。星乃城学園では期末テストで赤点を取った生徒には、夏休み開始から一週間みっちりと補習が待っている。


「寂しいよぅ……」


 ぽつりと呟き。自分の席へと移動して、着席する。同時にドアが開く音。由貴は仲間出現に目を輝かせ、顔を上げた。

 ――なんと、吹雪だった。


「あ。よ、よお妹」


「そのネタもう一回引っ張ってきたら殴る」


 相変わらずの冬用セーラー服姿の吹雪は真っ赤になって、由貴を睨み。自分の席へと座った。由貴の方を意識して見ないようにしているようだ。ムッツリと横を向いている。

 転校生、周防吹雪が学園に来てから一ヶ月弱。夏休み前には演劇部に入部した、との噂を耳にしたし、友達も出来た様子だ。彼女も徐々にこの学園に馴染んできているようだ。由貴との関係は全く馴染んではいないけれど。


「周防さんも補習なんだ」


 それでもこの静かな教室内には、吹雪と由貴しかいないのだ。由貴は仲間意識を芽生えさせて、話しかけてみる。


「悪い?」


 思い切り睨まれた。


「いやいやいや。仲間がいるのは心強いっす」


 由貴は吹雪の睨みを普通に受け流すくらいには、彼女の存在に慣れてきていた。愛想笑いを浮かべて言ってみる。


「……」


 完全に無視された。

 補習仲間がいたことを嬉しく思った気持ちが、途端萎んでいく。これから一週間もの間、二人で補習を受けるのか。更なる憂鬱な気分が身体に圧し掛かってきたような。

 沈黙が気まずい。由貴は視線を泳がせつつ、しかし教室内に見るものなんて何一つない。やはり、吹雪の存在が気になってしまう。


「……そういえば周防さんの純潔のことなんだけど、解決したのか?」


 話題、話題を、と頭の中に出てきたのはやはり『純潔』の話題だった。

 転校初日以来、吹雪からその話題は一度も出てきてはいないが、何か思い悩んでいる様子はずっと変わっていない。

 吹雪は瞳に更に厳しさを込め、由貴を見つめてきた。


「そのことはもう忘れて。今はあまり考えないようにしているから」


「そうか。まあ周防さんがいいなら、いいんだけどさ」


「……いいわけないじゃない」


 吹雪が小さな声で呟いた。由貴の耳には届いていたが、彼女にこれ以上何か言えることもない。諦めて息を吐き、視線を下に落とす。

 開け放たれた窓から風が入り込んでくる。汗ばむ教室ではありがたい筈の爽やかな風が、この場では異常なぐらい寒々とすら感じる。

 今となっては、少しでも早く補習の教師に来てもらいたい思いだった。教室内で二人きりのピリピリした雰囲気が、由貴の気持ちを堪らなくさせる。


「あのさ!」


 耐え切れなくなった。思い切って、吹雪に向けて声をかけた。

 吹雪は怪訝な表情ながら、顔を向けてくる。


「ずっと気になってたんだけど……俺さ、色々と周防さんにひどいこと言っちゃっただろ。図書室でのこととか、ずっと謝りたくって。……ごめん!」


 由貴はガバっと頭を下げた。


「……ああ、そのこと。わたしもあなたのこと殴ったし、お互い様」


 吹雪は表情を変えずに言った。

 由貴はほっと胸を撫で下ろす。やはり泣かせてしまったことにずっと罪悪感があって。あまり気にしていない吹雪の様子に、心が軽くなった。


「よかった。俺って思ってることすぐ口にしちゃうみたいでさ」


「そうみたいね」


「あ、やっぱりわかる?」


「顔に書いてある。馬鹿正直」


 吹雪に言われ、由貴は思わず顔を触って確かめた。

 すると――吹雪がぷっと吹き出した。

 由貴はとてつもなく驚き、固まる。


「本当に書いてあるわけないじゃないの」


 吹雪に突っ込まれても、硬直したままだった。暫く吹雪を凝視してしまっていた。そういえば出会ってから泣き顔や怒った顔ばかりを見てきた、ということに気付いた。

 笑っている顔を見たのは、初めてかもしれない。

 由貴は自然、顔が綻ぶ。やはり吹雪も女の子だし、女の子が喜んでくれるのは嬉しいものだ。


「笑ってる方がずっといいよ、周防さん」


「え?」


 吹雪に聞き返されて、由貴は自分の言葉のクサさが恥ずかしくなって、頬をかいた。

 少しの間の後、吹雪もようやく由貴の言葉の意味を悟ったらしい。赤面して、俯いてしまった。


「……わたし、笑ってる方がいい?」


 遠慮がちに聞いてくる吹雪。


「……ま、まあ」


 由貴は頷いた。

 吹雪は一拍おいてから、顔を上げ、

 にっこり、と微笑んだ。一輪の花が咲いたような、可憐でひそやかな微笑みを前に、由貴は息を呑む。

 しかし恥ずかしくなったのか、すぐに由貴から視線を外し、前を向いてしまう。

 タイミングよく教師が教室に入ってきたので、由貴も慌てて前を向く。

 ――不覚にも。吹雪の笑顔を、可愛いと思ってしまった。


***


 本日の補習を無事に終え、由貴と吹雪は揃って教室を出た。

 頭に詰め込んだものを吐き出すように、同時に深いため息が出た。

 由貴が吹雪を見ると、吹雪も由貴を見上げていた。目が合ってしまい、照れ臭くなって由貴がはにかむと、吹雪も当たり前のように笑い返してくれた。

 なんとも和やかな雰囲気である。今までいがみあっていたのが嘘のようだ。

 少しだけ、吹雪と歩み寄れた気になった。補習も悪くない。

 由貴は軽くなった気分のまま、静かな廊下を歩き出す。吹雪も並んでついてきた。


「さああて。お楽しみの図書室に寄って帰るかな!」


 凝り固まった身体を伸ばしながら、由貴は言う。補習などはオマケに過ぎない。メインの時間はこれからなのだ。由貴は心躍らせ、自然ニマニマとする。


「……図書室に行くの?」


「だって俺には雪音さんが待ってるもん。雪音さんと会うことだけが今日の楽しみだったんだよ! これって恋だよなー。俺ってば雪音さんに恋しちゃってるんだな、うん」


 ピタリ、と吹雪が立ち止まった。

 そのことに数歩歩いてから気付いた由貴は、吹雪を振り返る。


「どうしたの周防さん?」


 由貴の目に映る吹雪は……もう笑っていなかった。

 見慣れてしまった、泣きそうな顔に戻っている。


「ばか」


 吹雪は言い捨て、踵を返して反対方向へと走って行ってしまった。

 廊下を折れて、姿が見えなくなる。由貴はただそれを呆然と、見ていた。


「……俺またやっちゃった?」


 一体何がまずかったのかわからない。由貴は立ち尽くし、呟いた。

 暫くの間、途方に暮れていた。しかしこんな場所に棒立ちになっていても何ができるわけでもない。

 今日はもう帰ろうかな、と意気消沈してしまい由貴はとぼとぼと歩き出した。


「相沢君」


 背後から自分の名前を呼ばれ、由貴は反射的に振り向いた。


「んげ」


 顔が歪んだ。額に青筋が走る。

 由貴の背後にいつのまにか立っていた人物は、由貴がこの世で最も顔を合わせたくない人物だった。夏休みの人気のない廊下で、よりによって最悪な人物と遭遇した自分の不運を呪う。


「偶然だね」


「ぐっ偶然ですね、俺もう帰るとこなんすよ。じゃあさよならっ」


「それはよかった。僕も部活が終わって丁度今から帰るところなんだよ。一緒に校門まで行こう」


「あ、いえそれは」


「いいだろう?」


「……はい」


 有無を言わさぬ圧倒感。由貴は仕方なく、頷いた。

 校内に人気はあまりないが、部活やプールに来ている生徒や補習組などもいる筈だ。誰かに目撃される可能性はあったが、由貴の噂などもう学園内で知らない人間などいないのだ。

 ああもういいや。好きに噂してくれ、と半ばヤケクソ気味に由貴は歩き出した。

 隣に並び歩き始めた人物、生徒会長、若槻八雲の横顔を由貴は少し見上げる形でこっそりと見遣る。

 この人は変態認定されても、全く動じてないのだろうか。

 学園中に由貴を部室で押し倒したことがひろまった時も、表情一つ変えなかったと風の噂で聞いた。由貴とは思考の構造が全く違うようだ。

 陶器の西洋人形のように滑らかな肌と整った顔立ち、襟足が長めのさらさらとした髪の毛。身長は高く、程よく筋肉がついているのが制服の上からでも分かる。どこを見ても全く欠点がない。隣を歩くのが女生徒ならば、間違いなくぽわわ、と魅入ってしまうだろう。


「陸上部に戻ってくる気はないのかい? 相沢君は足も速かったし、レギュラーは確実だったのに」


 八雲が由貴に優しげに顔を向け、問いかけてくる。


「す、すいませんどうしても戻れないのっぴきならない理由がありまして」


 お前が理由だ! と心の中で突っ込む。


「もしかして僕がしたことを、気にしているのかな」


 八雲の言葉に、由貴は思考を読まれたのかとドキリとしたが、なんとか表情は平静を保った。


「いえ。陸上部をやめたのは一身上の都合でして」


「中途半端な気持ちで君を押し倒したわけじゃない」


「ひゃっはー! 中途半端な気持ちでいいです!」


 堪らなくなって、喚き散らす。それを見てか、八雲が苦笑を浮かべた。


「そんなに僕の気持ちは重いかな」


「……八雲先輩、この際はっきり言います」


 由貴は立ち止まって、八雲と向き合った。視線が絡み合う。

 ドキドキドキ。なんでこの人は、こんなにも吸い込まれそうな瞳なんだ。

 ごくりと由貴の喉が鳴る。

 決意を固め、肺いっぱいに息を吸い込んだ。


「俺、そういう趣味じゃないんではっきり言って迷わ――ひぃっ!」


 言い放ちかけた言葉は半ばで、途切れてしまう。

 八雲がずんずんと歩み寄ってきて、がばりと由貴を抱き締めてきたのだ。


「な、なあぁあっぬわあぇ」


 由貴の口からは意味不明の言葉しか出てこない。

 至近距離で八雲が由貴の瞳をのぞきこんできた。くすり、と妖艶な笑みを浮かべた。


「君の気持ちを手に入れたいんだ」


 八雲の吐息が首筋を撫でる。ぞくぞくぞくと、背筋に走る戦慄。

 こうして迫られるのは二度目ながらも、八雲の魔力でもあるような眼差しに、由貴は全く抵抗が出来ないまま震えることしかできない。

 細長い指が、由貴の顎をぐいと掴み。顔を上向きにされた。


「ゃ……い、嫌……」


「なんていう色気なんだ。相沢君、君はすごく可愛いよ」


 由貴の目の端に涙が浮かぶ。

 滲んだ視界に映る八雲の顔が、唇が、近付いてくる……!


「君を僕のモノにする」


 八雲が程近く、唇が触れるか触れないかの距離で、紡いだ。


「!?」


 そして由貴は八雲に強引に腕を掴まれ、近くの教室へと引きずり込まれた。







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