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厳寒の候(3)

練習試合終了後、ミーティングを終え、

解散になったのは午後1時過ぎだった。

部室に向かおうと歩いていると、マキオが寄ってきた。

「水瀬、あいつさ、美里に携帯聞いてたけどよ、

 美里が携帯電源切れててとかごまかしてたよ。」

「ふーん。」

「良かったな。」

「何がだよ。」

それっきりマキオは返事をしなかった。

黙ったまま部室の前まで来たところで

マキオはぼそっと呟いた。

「気になる癖に。

 素直に美里とくっつけばいいんじゃね?

 何でそんなに回り道すんだよ。」

マキオはイライラした様子でドアを開け中に入った。


「くそったれ。」

そのまま部室に入る気になれず、体育館に戻ろうと、今来た道を戻った。

倉庫からボールを一つ出し、ドリブルしながら駈け出した。

頭の中はマキオの言葉で一杯で

振り切るようにただ、暴れまわるようにシュートを打って

また走って、シュートを打って。

ただひたすら走りまわって、叫びたいほどの怒りをぶつけた。


息が上がって苦しい。

どのくらいの時間走り回ったのか。

コートの真ん中にごろりと倒れこむように寝ころんだ。

「はあ・・・・・疲れた!!」

独り言には大きい声で呟いた。体育館に自分の声が響く。

「あーもう、ムカつくマキオ!」

そう言いながら横に転がるように動き体を起こした。座り顔を上げると、

入り口に誰か立っているのに気付いた。

逆光でよく見えないけれど、その背格好、

考えなくても分かる、美里だ。


「まだいたのかよ。早く帰れよ。」

顔も見ずに突き放すようにそう言うと、

美里は何も答えなかったが、近づいてくる気配がした。

うつむいたままぼんやりしていると、

突然、背中にボールがぶつけられた。

突然の事で、衝撃に倒れて身もだえしていると、

「体育館、鍵閉めて返さないといけないのよ。

 何いらついてるのか知らないけれど、

 帰るのはあんたの方よ、大輔!」

美里の怒鳴り声が体育館に響く。


あまりの剣幕に、圧倒されてぼんやり美里を見ていた。

俺はやっぱり、付き合うなら控え目な女がいい。

こんな気が強くて、短気な女はまっぴらごめんだ。

美里の怒った顔を見ながらそんなこと考えてた。


黙りこくった美里と、体育館のモップがけを終え、

部室で着替えて携帯をチェックすると、

美沙希から着信が入っていた。

掛け返そうかと一瞬思ったがそのまま携帯を閉じた。

今はそんな気分じゃない。なによりも、

別に付き合っているつもりもない。

話をすれば楽しいけれど、また会いたいとかそんなに思わない。

距離を置いた方が美沙希も分かるかもしれない。

ずるいこととは分かっているけれどそう思う。

俺、誰とも付き合い続けたいって思ったことない。

すぐ面倒くさくなってくる。

女はメールの返信がどうだこうだと、面倒くさいことばっかりだ。


そんなこと思いながら、自転車小屋で鍵のロックを外していると

携帯が鳴った。美沙希だろうなと思い携帯を見ると、

やっぱそうだった。

一瞬、出ないでおこうかと思ったが、何度でもかけてきそうだと

腹をくくって電話に出た。

「はい。」

「あ、大輔くん?部活終わった?」

「ああ。」

「今、どこにいるの?」

「まだ学校。」

「え~~まだ学校にいるの?もう3時になっちゃうのに。

 5時くらいに会えない?ね!」

そう高い声で矢継ぎ早に言われて、すーっと気持ちが萎えて来た。

「なんか用?」

そう言うと、一瞬の間が開いた。

「会いたいな、って思って。」

「ごめん、俺さ、部活忙しいから、暇なら他の人誘ってよ。」

そう言うと、ぶつっと電話が切れた。

これでいいや、面倒くさい。

ふーっとため息をついて携帯を閉じた。

即座に自転車を出そうとすると、後ろに人影があるのに気付いた。

「冷たい、大輔。彼女可哀想に。

 もっと優しい言い方ってあるんじゃない?」

美里がそう言いながら、自分の自転車の鍵を差し込んでいた。

「立ち聞きすんなよ。」

「聞かれたくなきゃ学校で話さなきゃいいじゃん。」

「誰もいないって思ってたんだよ。」

「同じ時間に部室出て、自転車小屋一緒なら来るって分かってるじゃん。」

そう涼しい顔で言いながら、俺の顔を見た。

「だから、女たらしとか、冷たい男だとか、変な噂立っちゃうのよ。」

「え・・・」

「じゃあね、また月曜日。」

自転車で足早に去ろうとする美里を慌てて追いかけた。


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