厳寒の候(2)
ぼんやりしていたら、さすがに体が冷めて来た。
そろそろ、またアップしないといけない。
そうぼんやり思いながらも、動けないでいた
いい天気だけれど、風は冷たい。
自分でも自覚は十分にあったんだ。
美里への独占欲とか、そんなことは気付いてた。
いまさら言われなくても分かっているんだ。
去年の夏、宿題を片付けるために、美里に家に来てもらった。
向かい合って一日二人でいるなんて事は
今まで無かった事だったし、ふと顔を上げるとそこにいて
改めて美里が小さいなあとか、指にほくろがあるなとか
そんな細かい事にいちいち気が付いたりとかして、
そうやって過ごしているうちに、なんか段々腹が立ってきたっけ。
こいつ、例え俺が友達だとしても、二人きりの部屋に来るか?
無防備にも程があるよな、なんて思ったり。
俺の事、男と思ってないだろうって思ったり、
人の頼みを断れない奴なんだよな、とか思ったり。
今考えたら、不条理すぎるいらだちを感じたっけ。
俺は、美里が好きなのかも知れない。
でも、今の関係が好きなのかも知れない。
付き合ったりしたら、何かを壊す気がする。
それが怖いのかも知れない。夏から俺なりに考えた結論だ。
美里はなんだかんだ言って、いい奴なんだ。
俺なんかが壊すわけにはいかない。
何をって言われてもよくわからない。
正直、どうしたいのか自分でも見失ってきてたりする。
水道の横に、バケツがあるのが目に入った。
思わず思いきりブリキのバケツを蹴飛ばすと、思ったより大きな音を立ててバケツは飛んだ。
スッキリしなくて、壁を蹴ろうとしたその時、
「大輔!何をしてるのよ!物に当たるなんてサイテー。」
振り返ると、美里が腕組みして立っている。
「何をイライラしてんのよ。
もうあと10分で始まるよ。」
「ああ、分かってるよ。」
そう答えると、更に大きい声で、
「分かってるなら早く来てよ、探したのよ。」
いつものように、そう怒った口調で言いながら近寄ってくる。
転がったバケツを拾い
「あ~~あ、歪んじゃって。先生に言っちゃお。」
そう言いながら、水道の下のスペースに押し込んだ。
「何考えてたの?ぼーっとして。」
顔を覗き込みながらそう言われると、答えようがない。
「別に、疲れたなって。」
そう答えながら体育館へ歩き出した。
美里も付いてくる。
「そんなボーっとするほど疲れてないでしょ?」
ふざけてペンで突いてくる。
「止めろ、お前なにすんだよ。」
「ツボ押し~~~。」
にやっと笑う美里に、つい意地悪したくなって口をついて出た。
「お前さ、彼氏とかいない訳?」
そう言うと、美里はぴたっと足を止めた。
でも、表情は笑顔のままで
「さて、そんなのいたっけ?」
そうにっこり答えた。なんかその思わせぶりな返事に急に苛立った。
「俺の友達が紹介して欲しいって言ってるけれど、会う?」
言った瞬間から後悔した。
言うつもりなかったのに、なんで言っちゃったんだろう。
変な間が開いた。
やっぱり言うんじゃなかった。
そう思った瞬間、美里が脇腹に体当たりしてきた。
思わずよろけて、態勢をとり直すと、美里は
「ばーか、あんたに紹介してもらうほど不自由してないもん!
誰とも付き合う気がないだけよ
早く行くわよ。」
アッカンベーと大げさにしてみせ、美里は走って行った。
なんだか拍子抜けた。
でも、なんだか安心してしまった。
誰とも付き合う気がない、か。
良かった、って何が良かったかわかんないけれど。
美里が体育館入口に消えるのを見ていた。
美里は振り返らず走って行った。
美里は美里でいて欲しい。
そんな我儘な気持ちを持っていた。