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残暑の候 (6)

黙ったままの気まずい時間が過ぎる

外からは蝉の鳴き声が窓を閉めても聞こえて、

でも、私たちは黙ったままだ。

こんな時に限ってなかなか足のしびれが取れないし。

隣に座っている大輔は、イライラしているのが

目に見えてわかるし。

気休めに、足をちょっと浮かせて指先を開いたりしてみる。

「何やってるんだよ。」

不機嫌そうに大輔が言う。

その口調に、なんだか気持ちが沈む。

「指の運動よ。しびれが早く消えるかもしれないでしょ。」

つい冷たく答えてしまったら、

それっきり大輔も黙ってしまった。


こんな時ってどうすればいいのだろう。


5分も経つと急に足が楽になった。やった!

「さ、行こう。」

そう言って立ち上がって見たら、バランスを失って

またよろめいてしまった。

しまった、そう思った時には、大輔に倒れかかってしまった。


どう言った訳か、大輔の膝に座る形で・・・・

これじゃ、子供が座ってるみたいだ。

どうしていいかわかんなくて、頭の中はパニックだ。

ドキドキするのは私だけなんだろうか。

息をするのもなんだか苦しい。

苦しいなあ、そう思うとなんだか悲しくなった。

きっと、こんなドキドキしてるのは私だけ。

大輔は、きっとこのどんくさい女とか思っているはずだ。

なんだか、悲しいを通り越したら、こうするしかなかった

「ぷっ、わははははははは。」

大輔の膝に座ったまま、おなかを抱えて笑った。

だって笑うしかないじゃない?

大輔の息が、頭にちょっとかかる。

こんな状況、滅多にないじゃない?

「なんだよお前、なんでそんなに笑ってるんだよ。」

大輔がそう聞いても、笑うしかないと思った。

だって、立てないし、仕方がないじゃん。

「なんだよお前、変なの。暑いから離れろよ。」

そう言って、手を取って立ち上がらせてくれた。

「ごめん。」

そう一言言うと、大輔は目線をずらして

「重いんだよ。」

不機嫌そうに、そう一言だけ言った。


コンビニから戻って、二人で弁当を食べていると

あからさまに大輔が目線をそらす。

根に持つ奴だな、そう思いながらも、冷たい態度に

なんだかちょっと傷ついてしまう。

さっさと終えて、家に帰ろう。

そう思って、そそくさと宿題のチェックに入ると、

「もういいよ、美里。あとは自分でやるからさ。

 送って行くから。ちょっと待てよ。」

え?

帰れって言うんだ。あ、なんだか落ち込んできた。

突き放されたような気持ちになった。

気持ちが宙に浮いて、どこにすがればいいかわかんない。

でも、自分の中のプライドを必死にかき集めた。

傷つく訳なんかないじゃん。大輔相手にさ。

そう自分の心に言い聞かせるように、必死で思った。

「別にまだ、送ってもらうような時間じゃないし。

 もういいなら帰る。」

バッグのチャックを開けて、自分の物を入れた。

「だから待てって。俺まだ食ってるんだよ。」

「私は食べ終わったし。一人で帰れるもん。」

大輔の顔は見ずに答えた。

なんでこんなに傷つくかわかんない。自分でも分かんないんだよ。

立ち上がると、大輔が反射的に立ち上がって、

私の腕を掴んだ。

「待てってば、何一人で切れてんだよ。」

「は?それはあんたの方でしょ?さっきから。」

「切れてないよ。」

そこで大輔の顔をやっと見る事が出来た。

怒ってるじゃん、ほらね。

なんだか我慢できなくなってしまった。

「あたしの足が痺れて何が悪いのよ。悪かったわねどんくさくて。」

そう言うと、

「誰もどんくさいとか言ってねえじゃん。」

大輔は反対に冷静にそう言った。

「だってあれから目も合わせないじゃん。」

そう言うと、大輔は急に目線を窓の外にやった。

「あのさ、お前よ、一応女なんだからさ、

 並んでベッドに座ったらさ、俺だって健全な男の子な訳よ。」

しどろもどろで訳の分かんない事を言い始めた。

「は?何言ってるの?」

「お前はさ、いい友達だからさ、そんなのはダメなんだよ。

 必死に抑えるわけだ。分かる?高校生男子はデリケートなんだよ。

 なのに人の膝に座ったりしやがって、お前は鬼か!」

・・・・・・・・・・・・・・・なんじゃそりゃ?

「意味わかんない。」

そう言うと、大輔は怒ったように言った。

「つまりは襲われたくなかったら、今日は解散!」


かーっと頬が赤くなって来るのがわかった。

あ、意識しちゃったんだ。そう言われると

なんだかこっちも恥ずかしくなってきた。

でも、なんだか意地悪したくなって。

「じゃ、どうぞ。襲う?」

そうにっこり笑って言うと。大輔は怒ったまま、

「行くぞもう!」

そう言いながら部屋を出て行った。

食べかけの弁当をテーブルに残したまま。


なんだか嬉しくなった気持ちを抑えて、カバンを持って追いかけた。

別に襲ってくれても良かったのにね。

心の中でそう思ったのは秘密にしておこう。

好きだとか言われてる訳じゃないし、浮かれるような事じゃないけれど、

なんだか嬉しくてたまらなかった。


自転車を押して二人で無言で歩いた。

夕方の風は少しずつ涼しくなってきていた。

ほんの少し、秋の気配を感じる。

前を歩く大輔について、自転車を押して歩く。

「ねぇ、9月後半、簿記検定あるの覚えてる?」

「いや忘れてた。いいよ俺簿記苦手だし。」

「あんた何で商業高校来たのよ。」

そう言うと、大輔が振り返った。

「バスケ部に入るため。」

そう言いながら、笑顔を見せた。

あーあ、叶わない恋だと分かっているのに、そんな顔されたら諦めきれないよ。

ため息をつくと、大輔が

「バカにしてるだろ。」

そう言ってニヤニヤ笑う。


答えられないから、わざと

「バーカ、卒業できなくて泣かないでよ。」

そんな会話をしながら、

この時間が止まればいいのに、月並みだけど、そう願った。


ずっと大輔と、こんな時間を過ごしたい。

大きな思い出なんかなくてもいい。

この夏がずっと。

ずっと続けばいいのに。いい友達でもなんでもいいからさ。



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