表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/18

残暑の候 (5)

大輔が宿題を返してきたのは始業式の前々日だし。

しかも他の科目も貸してとかほざくし。

この瀬戸際になって何言ってるんだか。

「俺、他の科目も真っ白なんだよ。」

「知らないわよ、あんたの宿題まで。」

知らないと言いながら、頼むよお願い、と押されると弱い私。


仕方がないので、宿題一式持って大輔の家に行って、写すのを手伝う羽目になった。

最終日は顧問の先生も宿題に気を使ったのか

部活が休みになったので、朝9時に大輔の家に行った。

私のバッグには、宿題全部入っている。

私は結構計画立てて進めるのが好きなんだけれど、

大輔は見ていて分かるほど無計画で楽天家。

あの男、これで大学進学考えてるって本当に不思議。


一軒家の大輔の家の前に自転車を止めた。

朝の8時半。少しづつ気温が上がりだした。

今日も残暑が厳しい一日になりそう。

チャイムを鳴らす必要はない、大輔のお母さんが玄関を掃除してた。

「すみません、おはようございます。」

そう言うと、お母さんは顔を上げ、ああとにっこり笑った。

大輔のお母さんは、何度か試合に来ていたので

会話も交わした事があるし、とても気さくで明るいお母さん。

やはり大きな大輔の母なだけあって、結構背も高い。

聞いた事はないけれど、165センチ以上ありそう。

バレーボールをやってたとかで、体育会系って感じ。

「美里ちゃん。おはよう、いらっしゃい。」

「あの、大輔君は・・・。」

そう言いながら、玄関に近づいた。

お母さんは私の肩に手を置いて言った。一瞬驚いてしまった。

「もしかして、大輔が宿題頼ったの?ごめんね。

 あのバカ息子、勉強なんかしている雰囲気じゃないもの。」

「いえ・・・・。」

「真帆がね、大輔が美里ちゃんの宿題丸写しにしてるって怒ってて、

 ごめんね美里ちゃん、思い切り叱ってやっていいから。

 ちょっとやそっと殴っても全然平気よ。」

試合の時にたびたび話をするんだけれど、このお母さん豪快なのよね。

「勝手に上がって、寝てたら叩き起こしていいから。」

そう言って、通れるようよけてくれた。

「じゃ、おじゃまします。」

そう言って玄関に入り、靴を揃えてから

2階の大輔の部屋に向かった。ここに来るのは3回目。

迷わず階段に向かった。


部屋のドアを開けると、やっぱり大輔はベッドで寝ている。

良かった、Tシャツと短パンは履いてる。

でも、Tシャツめくれて胸まで丸見えなん

暑いから裸だったらどうしようとか思ってドキドキしてたなんて言えない。

そっとベッドの脇に立った、このまま見ていたい気もするけれど、

宿題の量からして急がないと困るはず。

「大輔、大輔起きてよ!人の事呼んでおいて、なに寝てんのよ!」

そう言って腕を揺らすと、急に飛び起きてこっちが驚いた。

「うわ!美里。げ、ちょっと俺トイレ。」

飛び起きて部屋を出て行った。なんじゃありゃ。

大輔の机にカバンを置き椅子に座った。壁には巨乳だけが売りの、

グラビアアイドルのポスターが貼ってあった。

部屋の隅にジャンプが積み上げてあるが、部屋は比較的きれいにしてある。

きっとお母さんが掃除してるんだろう。ってことはエロ本は精巧に隠されてるわ。

そんな事を思ってると、トイレのついでに顔も洗ったらしい大輔が入ってきた。

「お前ね、男の朝はいろいろあるんだから、寝込みを襲うなよ。」

「色々って何よ?」

大輔は意地悪そうにニヤリと笑う。

「男の朝の生理現象が分かんないならいいや。」

一瞬何の事かわからずぼんやりしてたが、急に思い出した。

「赤くなるなよ、俺の方が恥ずかしい。」

そう言われると余計恥ずかしい。顔が赤くなる。

「どうでもいいから早くしようよ。もう!

 大体自分で呼んだんだから、もっと早く起きなさいよね。」

きっと赤くなってるはずの頬を見られないように机の方を向いて言った。

下ネタは得意じゃないのよ。ああもう。

大輔は口笛を吹きながら、テーブルの上を片づけ始めた。


本当、この男の集中力って、小学生か幼稚園児レベルだ。

英単語書き取りは私が書くとばれるので、

問題集の穴埋めを私がして、大輔は単語を書いていた。

まだ、1時間しか経ってないんだけれど。

「俺、もう無理かも。指が痛い。ペン持てない。」

そう言ってテーブルに頭を乗せ目を閉じた。

「あのさ、あたしはボランティアでやってるの。せめて、やる気見せて。

 ちゃんとやってればこんな目には遭わないのよ。」

「暑いせいだ、エアコンに切り替えようぜ。」

そうだるそうに言ってリモコンを手にした大輔は、

ピッとエアコンのスイッチを入れた。

文句しか言ってないよ、この男。最悪だ。

窓とドアを閉めると、急に部屋は静かになった。

蝉の声も、車の音も近所の子供の声も遠くなった。

大輔はエアコンの前で風を浴びてる。

「こんな低いテーブルで辛くない?大輔、猫背になっちゃってたよ。

 机の方が楽なんじゃないの?」

体が大きい分、なんだか辛そうなんだけれど。

「いや、どっちにしろ辛いのは一緒。勉強が辛いんだからさ。」

そう言ってまた床に座った。

大輔のお母さんがドアから顔を出した。

「美里ちゃん、おばさん仕事に行くんだけれど、大丈夫かな?

 お昼はそこのコンビニで何か買って食べなさいよ、大輔。

 美里ちゃんにも買ってあげなさいよ、あんたが呼んだんでしょ?

 ごめんね、美里ちゃん。」

「いえ、大丈夫ですから。」

「大輔、変な気起こさないでよ。じゃね。」

そう言うと手を振ってドアを閉めた。


変な気、って、おばさん・・・・。

余計に意識しそうで、問題に集中している振りをした。

大輔もブツブツ文句を言いながらノートに向かってた。

なんだか楽しくなってきた。いいなあ、この時間。

このままずっといられたらいいのに。

必死に英単語をノートに綴る姿は、見ていて飽きない。


昼1時になって、大輔がお腹が空いたと言いだしたので、

2人でコンビニに行くことにした。

宿題も、後は大輔の漢字の書き取り程度に減ってた。

大輔が先に立ちあがった。

「行こうぜ、早く。」

そう言うけれど、正直立ち上がりにくい状況。

だって、私、片足がしびれているんだもん。

「ちょっと待って、足が痺れてるよ。」

ベッドに捕まり立ち上がると、足の甲で立ったらしく

転びそうになった所を、大輔に腕を引っ張られた。

そのままベッドに美里を腰掛けさせられた。

大輔はなんだか不機嫌そうに言う。

「危ない・・・・捻挫するぞ。下手したら靭帯まで痛めるぞ。

 しばらく腰かけて座ってろよ。」

大輔の声がかすれていた。

足を崩してもすぐ痺れるんだよね。

並んで座っている大輔がイライラしているのを

どうたしなめようか、考え込んでしまう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ