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厳寒の候(7)

ハンバーガーショップに寄ってから、地元の大きな神社に初詣に来た。

時間は、もう午後2時になっていたのに、元日だけあって

参拝者が沢山いて、流れに飲まれてはぐれそうになる。

もう、今は手を繋いでいない。

だって、誰かに見られたらどうしようってのもあるし、

自分から大輔に手を差し出す勇気もないし。

歩くのが早い大輔に、追いつくのは容易じゃないんだよね。

歩幅が違うんだもん、基本の歩幅からして違う。

ちょっと小走りで付いてくるのにも、大輔は気付かない。


手を清めて、境内に入ってお参りする。

並ぶほどの人出ではないので、とりあえず財布を出した。

お賽銭を入れて、周りの人の作法を真似して、って思って周りを見ると。

勝手に大輔は拝んでいた。

慌てて手を合わせて願う。

その願いはどれを優先したら良いのか、心の中で迷っているうちに

良くわかんなくなってきた。

とりあえず、私の願いが全部叶いますように。

そんなやけっぱちな願いを、神様は聞いてくれるのだろうか。


「ねえ、おみくじ引かない?大輔。」

境内の隅におみくじがあるのが見えた。

大輔のジャンバーの裾を引いておみくじの方へ向った。

「一部50円だって、私、100円出すから一個づつね。

 ねえ、大輔が先に引いてよ。」

そう言うと、大輔はなんだか不審そうな眼で見る。

「なんで俺が先なんだよ。」

「残り物の方が福があるでしょ?」

「なんだそりゃ。」

そう言いながらも、手を入れておみくじを引いたのを見てから

私も手を入れて、迷わずさっと引いた。

「意外に迷わないんだな、お前。」

「こういうのは直感で行かないとね。さ、開けよう。」

境内の隅に移動しながらおみくじを開いた。

「ああ、私、中吉だって。」

待ち人、遅れるでしょう、だって。

口には出さなかったけれど、なんかそこが気になる。

「試験は努力が実を結ぶだって。大輔は?」

「俺、大吉。さすがだねえ、俺。」

「でも、試験は努力すれば結果になるだって、

 大輔、努力してる?」

「努力してるさ、要はバスケットで引っ張って貰えばいいわけだ。

 俺、夜は必ずジョギングに筋トレやってるし。」

「へぇ、知らなかった。」

本当に知らなかった。驚いてそう言うと

「昨夜も、夜中に走ってたんだぜ、夜中1時。

 お前にメールしたあと眠れなくてさ、ついでに初詣しようかと思ったけど。」

そこで話を切るので、

「思ったけどなに?」

そう聞くと

「だって初詣の約束してるのに、先にしちゃ悪いだろ?」

目も会わせるわけでなく答えたけれど、なんだか率直に嬉しかった。

でも、それを悟られるのはちょっと嫌だったので、無表情で答えてしまう。

「なんで?」

そうわざと言うと、大輔は黙ったままだった。


我儘だけれど。答えて欲しい。

でも、その気持ちは通じないままだった。


私はどこまで欲張りになっているんだろう。

そう思うと、恥ずかしい気持ちになった。

今、この時間を幸せと思わないといけないのにね。


深呼吸して気持ちを切り替えた。

「で、どこに結ぼうか?おみくじ。」

今、この笑顔を大輔に向けれることに感謝しよう。

間違いなく、一年後の進路は、二人全く違う物になるのだから。

その時まで、その時までは。


もっと素直になれたらいいのに。

分かっているのにな。


おみくじを結ぶ紐はどこも一杯だ。

びっちりおみくじが連なっている。

「どこ結ぼうか。どこかある?」

そういってきょろきょろしていると、大輔は

「貸せよ、上は空いてるから。」

そう言いながら自分のを私の手の届かない高い所に結んでいた。

「ほら、貸して。」

そう言って私のおみくじを取って結んだ。

・・・・・・・・・・・・・

「便利ね、大輔。人の届かないところに届くって。」

そう言うと、私の頭にぽんと手を置いた。

「お前のつむじも良く見えるよ。」

「なんかムカつくわ。」

「つむじのとこ、ちょっと日焼けしてる。」

思わず、さっとつむじを手で隠した。

「そんなとこ真剣に見ないでよ!」

大輔はにやりと笑う、この和やかな空気が一生続きますように。



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