厳寒の候(8)
大晦日の31日は、お母さんも夜勤明けではあるけれど仕事が休みで、
午後は一緒に買い物に行ったりして、
夕方までいろいろ時間が潰せた。
夕食にちょっと豪華なお弁当を買って帰った。
そのほんのちょっと、豪華なお弁当を食べながら
年末のテレビ番組を、2人で見ていた。
「美里、明日お母さん仕事だけれど、どうする?
お父さんの所行ってもいいけれど。」
お母さんは、私に目も合わせずにそう言った。
心の中に黒いものが走った。
本当に仕事なのかな?
本当は彼氏と一緒じゃないの?
嘘つかなくてもいいのに、別に彼氏がいいならそれでもいいし。
いつも仕事が忙しいって言うけれど
時々は彼氏と一緒だって本当は知っているのに。
理解できないほど子供だと思っているの?
それとも、知られたくないような人なんだろうか。
なんて悪い方に考えるのは行けないことだと思うけれど。
「いい、友達と初詣に行くから。お父さんの所には行かない。」
勤めて明るくそう言うと、お母さんは、ほっとした顔でこっちを見た。
「そう、本当に?なら一人で大丈夫ね?」
そう言ってまたテレビに目を移した。
大丈夫って何が?
喉元まで出た言葉を飲み込んだ。
お母さんが楽しそうなのは嬉しい。
それが一番いい、私のために我慢することはない。
心からそう思っている。
だから、本当の事話してくれてもかまわないと思っているのに。
でも、これが、お母さんなりの気遣いなのかもしれない。
だから邪魔しないようにしなきゃ、いけないよね。
そう無理やり納得するようにした。
疑ったり、考えたり、そんなの疲れる。
年末の特別番組は、どれも変わり映えしない。
これを見たら年が明ける、そんな毎年変わらない風景。
ぼんやりソファーでテレビを見ていた。
来年も、大輔のそばにずっといれますように。
そんなことを思いながら携帯に目を遣った。
あれ、携帯がなんだかチカッとと光った。
未読メールがあるのにやっと気付いた。
慌てて携帯を開くと、大輔だった。
30分前くらいに入ってた。
気付かなかった、ごめん大輔。
メールを開くと、絵文字も何も入ってない、
いつもの大輔風のメール。題名すらない。
1日、初詣行こう、起きたら電話するから。
だって
起きたらって何よ。何時まで寝るのよ。
くすっと笑いが込み上げた。
ほっといたら何時に起きるんだろう。昼までに起きればいいけれどね。
メールが来て30分経ってる。
返信のメールを打った。
今気付いた、何時に起きる気?
それだけ打って返すと、すぐに返事が来た。
メールを開くと
じゃ、起こして、美里が起きたら。
朝5時に起こしてもいいのね?なんて意地悪なことを思いながら、
幸せな気持ちで除夜の鐘を聞いた。
テレビの除夜の鐘だけれど。
どの局も同じ映像だけれど。
年が明けるのを待った。
大輔に一番最初に、年明け最初に届けたい。
テレビのカウントダウンに合わせて
2秒前に送信した。
あけましておめでとう。今年もよろしく。
では、また後でね。
言いたいことはいっぱいある。
本当はいっぱいある。
でも、それを口に出すと壊れそうで怖い。
神様お願い、一秒でも長く、大輔と一緒に居れますように。
そしてその瞬間、
ああ、もしかしてお母さんも恋をしてるのかなって
そんな風に思えた。
いいよね、それでも。
お母さんもこんな幸せな気持ちになる権利はあるもの。