厳寒の候(7)
あれで本当に、納得したのか分かんないけれど、
笑顔で大輔が去っていく。
あれで納得したのだろうか?
その後ろ姿を見てから
マンションの自宅に戻った。
本当はやるせない気持ちは消せないままなんだけれどね。
私の方はなんだか納得行ってない、かもしれない。
大輔は夕闇の中、手を振って帰って行った。
赤い夕焼けと、紫の闇がグラデーションになった空。
そこを大輔が見えなくなるまでずっと見ていた。
部屋に戻っても、何も手に付かずぼんやりソファーに座ってた。
静かすぎる部屋が淋しいから、とりあえずテレビは付けてあるけれど、
テレビの内容なんか全く頭に入らなかった。
お前がいないと、って言葉も嬉しかった。
追いかけてきてくれたのも嬉しかった。
どうでもいいなんて思ったことない、そう言われて
嬉しくないわけがない。
でも、付き合っているわけでもなく、
付き合うとか言われたわけでもなく。
でも、言葉にすれば安心かってそういう訳じゃないけれど。
誰もいない家の中で、不意に込み上げた衝動のまま
ソファーのクッションを投げた。
「バーカ!だから、そんなんだから・・・」
そんなんだから何なんだろう。
不意に言葉に詰まってしまった。
女心を読めないはっきりしない男だって分かってたし、バスケ馬鹿で
そっちが一番って公言してたじゃない?
女の子に言い寄られても、ふっと冷たくなるのも見てたじゃない。
何をどうしたら私は満足するの?
答えなんかない気がする、だって大輔だもの。
そんな男が好きな私が一番馬鹿かもなあ。
「馬鹿はあたしか、そっかあ。」
笑いが込み上げた、だってしょうがないよね。
それでも好きなんだもん。大馬鹿だ、私。
ソファーに座ってクッションを抱きしめると
抱きしめられた時の感触がリアルに再現されてきた。
ずっと抱きしめられたいと思ってた
ずっとこうしたいと思ってた。
思ってたより暖かくて、思っていたよりドキドキして。
このまま、離れたくないなって思ってたのに。
なのに謝られて、私のプライドが傷ついちゃったんだ。
「謝んないでよ。」
思わず口をついて出てしまった。
いっか、誰も聞いてないし。
だって嬉しいって思ったんだもの。
大輔は大きい。
いつも見上げると、大輔の顔のと一緒に空が見える。
同じ高さで見つめたいと思ってた。
ずっと前から。
ずっとそう思っていたんだもの。
絶対、大輔には言わないけれど。
時計はもう夜10時近くなっていた。
まだご飯も食べてないし、お風呂も入ってない。
テレビは年末特番ばっかり。もう29日だもんね。
明日は部活の練習もない、大輔に会うこともない。
どう、しようかな。何をしよう。
何にもすることがないなあ。
仕方がない、宿題終わらせておこうかな。
あの馬鹿な男が泣きついてくる前に。
とりあえず浴室に向かった。お風呂に入ってからゆっくり考えよう。
大輔と一緒にいられるのも、あと一年ちょっと。
一緒に部活にいるのは、あと半年くらいかな。
いつまで大輔のそばにいられるだろう。
大輔がいないと、私の日常はどう変わるんだろう。
それを思うとかなり切ないから、考えるのは止めよう。
勢いよく服を脱いで、浴室に入った。
この時期のシャワーはさすがに寒くて、身震いがした。