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厳寒の候(6)

部室の窓から冷たい空気が入ってきた。


美里は何故か、その間ずっと抵抗するわけでもなく、

何か文句を言う訳でもなく、腕の中に収まってた。

「帰ろうぜ、見回りが来る。」

美里を起こして、立ち上がるとまだ

座り込んだままだった。

「ほら、帰ろう。」

そう言って手を取ると、美里は何も言わず立ち上がった。


正直ひっぱたくとか怒鳴るとか、

そんな反応してくれれば良かったのにと思ってた。

いつもの2人に戻れそうな気がしたのに。

なんだか収拾付かない、そんな気持ちのままだ。

黙ったまま、部室の戸締りを済ませ鍵を閉めた。


「どこまで付いてくるのよ。」

美里の後ろを付いていると、やっと口を開いた。

いつも別れる場所はとっくに過ぎて、美里の家の近くまで来てた。

「いや、家に着くのを見届けようかと。」

そう言うと美里は突然自転車を止めた。

「別に!送ってくれなんて言ってないからね。」

そこで口ごもった、

顔を上げた美里の目を見ると赤く潤んでいる。

「ごめん、美里。」

ついそう言うと、その途端、目からぽろぽろ涙がこぼれるのが見えた。

俺の心臓は跳ね上がるほど脈を打った。

「別に謝って欲しくなんかないのに!」

ぽろぽろと涙を流しながら訴える美里に

なんだかどうしていいかわからなくなってきた。


慌てて、近くのコンビニの裏の駐車場に連れて行った。

片手で自分の自転車を押し、片手で美里の自転車を引っ張った。

塀沿いに自転車を止め、座り込んだ。

美里はうつむいたまま地面にポタポタ涙を落した。


「美里、そんなに泣かれちゃ、そのまま帰せないだろう?

 どこか寄って行くか?」

そうそっと言い背中にそっと手を添えた。

美里はうつむいたまま、頭を振った。

「帰るから。」

「でも、家に帰ったら、親、驚くぞ。」

「大丈夫、帰っても誰もいないし。

 別に何ともないし、帰る。ただ・・・」

「ただ、何だよ。」

美里はうつむいたまま言った。

「あたしは、大輔のどうでもいい人にはなりたくない。」

「え?」

「どうでもいい、で済ませられる相手にはなりたくない。」

ふと、先日の会話が蘇った。

「私は大輔の事、どうでもいいなんて到底思えない。

 だから私も、そんな事思って欲しくない、それだけ。」

そう言うと、美里はものすごく素早い動きで去って行った。


どうでもいいなんて思ってない。

だから今まで壊せなかったのに。

でも、それをどう伝えたらいいんだろう。

しばらく考えて、そして

美里の家があるマンションへ向かった。


どうでもいいや、で終わらせたくない。

今、美里を手放したくない。

心からそう思った。辺りは薄暗くなってきた。

でも、とにかく、今解決しないと、もう戻って来ないような気がした。


美里の家のあるマンションの横の、小さな路地に自転車を止め、携帯を取り出した。


電話をかけようかと思ったけれど、メールの作成画面を起動した。

俺、今、お前の家の下。

出てくるまで待ってる。


これだけ打って送信した。

すぐに出てくるはずなんかない。

なんで、美里にこんなに固執してるんだろう。

もしも明日から、美里がいなくなったら、

明日から視界の端からもいなくなったら。

そう思ったら、いてもたってもいられなくなってきた。


メール、打ってみよう。

携帯を再び開いてみた。


お前のことどうでもいいで済ませたくない。

なんで他はどうでも良かったんだろうって考えたら

お前じゃないからどうでもよかったんだなって思う。


だからもう一度、俺の話を聞いて


送信して、マンションを見上げた。

格好悪くてもいいや。

ただ、今、話をしないと

永遠に失う気がして、それだけが怖くて。

独占欲とかいろいろ言われて、単に自分のプライドとか

そんなのばっかり気にして、意地になってただけで。

付き合いたいとか、いろんなこと以前に

ただ、美里を失いたくない、それを認めないといけなかった。


頭では分かっているのに


明かりがいくつか灯り始めたマンションを見上げた。

周りは薄暗くなって来たのなんか、どうでもよかった。

ちょっと寒いなと思い始めた時、服の背中を掴まれた感覚がした。

振り返ると、美里が服を掴んでいた。

「もう、大輔何やってるのよ。不審者みたいじゃん。」

そういつもどおりに、口を尖らせて文句を言う。

「いや、お前怒らせたし、

 俺、このままじゃ、家帰ってもとても寝れないよ。」

そう言うと、美里はため息をついた。


「そりゃ、怒るでしょ。

 私が転んで、助けてもらったのに、なんであんたが謝るの?

 謝らないでよ。って言ったじゃない?」

「え、でも、俺、このままお前が口聞いてくれなくなったら

 どうやって残りの学校生活過ごしていいかわかんねえよ。」

なんかプライドも何も、くそったれだ。

そんな気分になって、ついそうぽつりと言うと。

美里はくすっと笑った。

「あたしがいないと卒業できない?」

そう言って下から俺の顔を覗き込む。

そのいたずらな目つきに、ついこっちも笑みが浮かんだ。

「うん、俺、お前がいないと宿題出来ない。」


そう言うと、二人で笑った。


うん、俺、お前がいない人生なんか考えられない。


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