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厳寒の候(5)

終業式を終え、冬休みに入り、部活漬けの日々に入った。

美沙希ともあれっきりだったし、美里との会話でも

その話はもうなかった。

心苦しかったはずがいつの間にか忘れてしまっていた。

ただ、ちょっと心配なのは

あいつが本当に、俺のホモ説を本当に流していないかって事だった。

あいつならやりかねない・・・。


「お前さ、毎日毎日、律義に部活に出てきてさ。

 他に用事はないのかよ、美里。」

部室はただでさえ埃臭い。

美里は椅子に乗り、ロッカーの上の埃を落としていた。

短い冬休みにほぼ毎日部活なんて、と文句を言いながら

他の部員は皆、部活を終えるとさっさと着替えて帰って行った。

部室の窓は開いていたけれど、埃が部屋中を舞う。

年の瀬の空気は冷たく、着替えてると寒くて仕方がない。

「これが用事よ。

私の日常に文句あるなら掃除手伝ってよ。」

振り向きもせずに美里が言う。

「あのさ、部室なんか汚くても正月は来るよ。」

「そんな部員がいるからこんな部室なんでしょ!」

美里のマスクの鼻は真っ黒になっていた。

埃の匂いがつんと鼻の奥に感じる。

「俺は今、埃吸いまくってるんだけれど。」

「大丈夫そのくらいじゃ大輔は死なない。」

そう言いながら構わず埃を落としていた。

「もう適当で止めとけよ。」

そう言いながら美里の後ろに近付いた。

椅子に乗って、やっと同じ高さになっている。

ちょっとおかしくなったが、込み上げる笑いをかみ殺した。


ふと見ると、美里の頭に埃が付いていた。

「お前の埃、落としてやるよ。」

後ろから美里の頭をはたくと、椅子は回転椅子だったため

バランスを崩して、美里が倒れた。

「きゃあああああ!!」

と言う叫び声に反応して、倒れて来た体を受け止めた。


がちゃんと椅子の倒れる音が響き。

俺は座りこんだ姿勢で美里の下敷きになっていた。

「痛ーい!」

美里が甲高い声で叫ぶ。

「それは俺のセリフだ。」

美里が痛い訳ないだろうよ、俺の上に乗ってるんだから。

美里の重みと、温かさと、匂いが。

無視しようと思っても、それが伝わってくる。

湧きあがる迷いを、どう押さえたらいいんだろう。

シャンプーの匂い、だろうな、きっと。

甘い匂いに、思わずぼんやりしていた。

マキオ、俺、認めるよ、ああ、認めよう。

なんだかそんな事を思っていた。


「ご、ごめん。重い?立てない???」

美里が慌てたように体をずらした。

「怪我してないよね、ねぇ。」

覗き込むように話しかける美里は、小さくて。

それを実感すると、どうしようもなく胸が疼く。

美里は慌てた様子で、おろおろと

「ねえ、立って、ちょっと立ってよ。」

そう言って、俺の手を取って引っ張り上げようとする。


ばっかじゃねえの、美里。

そんなの出来っこないだろ?


「ほらもっと力入れて、俺立てない。」

わざとそう言うと、ちょっとムッとした顔で俺を見た。


ほんのちょっと、試したくなったんだ。

きっと、試したくなったんだ、と思う。


美里が引っ張る手を、逆に引っ張って引き寄せた。

小さく悲鳴を上げた美里の背中と頭の後ろに

手を回して引き寄せると体を回して抱きしめて、

そのまま、美里の唇を奪った。

なんの匂いだろう、美里からいつも香る匂いを

心行くまで吸いこんでいた。

何かを壊した、その罪悪感を埋めるように

ただ、ただ抱きしめた。

こんなに止められない想いは初めてで。

その後どうしていいかわからなくて

ずっと抱きしめていた。


周りの音も何も聞こえない。


ああ、本当はこうしたかったんだ。

ぼんやりそう思った。

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