表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/18

厳寒の候(4)

コンビニでパンとジュースを買って、

川沿いの整地された公園のベンチに並んで腰かけた。

公園とは言っても、子供の遊具があるわけでもなく

ただ、散歩コースの休憩所と言う感じで、あずまやとベンチ、それだけしかない。

でも、川の流れがよく見えて、感じのよい気に入りの場所だった。

「もうすぐここも寒くて座れなくなりそうね。」

そう言いながら、美里はペットボトルの紅茶を開けていた。


「で、美沙希ちゃんの何が気に入らなかった訳?」

丁度コーラを口に含んだ所で、美里はいきなり核心に触れる。

思わず、前に向かって思い切り噴出した。

「汚いなあ、ほらティッシュ。」

ポケットティッシュを差し出されたが、いいよと断ってタオルで手や口をを拭いた。

「で、

今回の原因は?」

もう一度聞き返す美里に、なんだか素直に答えたい気持ちになっていた。

「別に、なんの原因とかじゃなくて、

 女って面倒臭いなと思うときがあってさ、メールの返信がどうとか、中身がどうとか

 用もないのに会いたいとか、そんなのに応えるのが面倒になるだけ。」

美里はぽかーんと口を開けたまま、俺の話を聞いていた。

「・・・・それだけ?本当にそれだけなの?」

「また会いたいとか、あんまり思わないんだよね。」

そう言うと、美里は驚いたように目を丸くした。

「え?付き合ってるんでしょ?」「付き合おうって言った覚えはないけれどね。」

「はぁ・・・・周りはそう思ってるじゃん。

現に彼女、試合とかにも来てたしさ。」

「美沙希はそのつもりだっただろうけれど、

 俺は付き合ってるとか言ってないけれど。」

「否定もしてないでしょ?」

「どうでもいいからなあ、マジ。」

そう言うと、美里は黙ったままで、ぼんやり前を見ていた。

何か言うのかと思っていたのに、何も言わずに前を見ていた。


「なんで黙るんだよ。」

美里は眉をひそめた、そして思い切り深く息を吸って吐いた。

ため息のをつくかのように重々しく話し始めた。

「どう探しても、大輔を救える言葉が見つかんない訳よ。」

「は?なんじゃそりゃ?」

なにが言いたいのか、意味がわからない。

美里はちょっとイラついた様子で続けた。

「そりゃ噂も立つわ、思わせぶりな態度でさ、

 その挙句、面倒くさいだとか、最悪。

 だったら最初からそう言えば?

 俺、男女交際って面倒なんだよねって。

 本当良かった、あたしあんたの彼女じゃなくて。

 好きな男にどうでもいいなんて思われたらたまんない。」

ごもっともかもしれない、そんな事は分かってる訳で・・

「はぁ・・・・」

「はぁ、じゃないよ!」

正論だからな、反論も出来ない。

「ちょっと反省して、女断ちしたら?」

「別に俺が漁って回っている訳じゃないし。

 メールとか面倒だとはちゃんと言ったことあるんだけれど。」

そう言うと、美里はちょっと寂しげな顔をして答えた。

「でも、本気になれないのに期待持たせるのは鬼だよね、大輔。

 なんのかんのって期待しちゃうじゃん?

 本当、女心がわかんない奴。」

そう言って美里はため息ついた。


あれ、このセリフどっかで聞いたような・・・・


「ま、仕方がないよ。グジグジ言ってもそれが大輔。

 誰か受け入れてくれる人を探すのね。

 探せないならずっと一人でいる事よ。」

美里はなんだかとても寂しそうに笑った。

その顔にどう答えていいかわからなくて、

同じように口元だけ笑って返した。

でも、なんだか素直に話が聞ける、

今は、今だけかもだけれど、なんでだろうな。


「いっそのこと、大輔はホモで、ガチムチが好きとか撒いておこうか?」

ふざけた表情で美里が言った。

「いっそそっちの方がいいのかもな。」

わざとふざけてそう答えた。

「いいのかもよ、傷つく女はもう他に要らないでしょ?」

「もう他にってなんだよ。」

「そのままの意味よ。」

そのままの意味って、美沙希までにしとけって事か?

「そんなにいっぱいはいないはずだけれどな。」

そのまましばらく沈黙が続いた。

犬の散歩をしているおばさん達が見える。

ぼんやり眺めながらパンを齧った。


「お前はどうよ。不自由してないとか言ってたけれど。」

そう言うと、急に冷たい声で

「私の事はほおっておいてくれる?」

「自分の話題はなしかよ。」

「だって何にもないもの。」

何もない、か。そっか。


日が落ちかけてきて、なんだか寒くなってきた。

それでも、そこで美里と過ごした。

日が暮れるまで。

本当はマキオの言葉を思い出していた。


美里を開放してやれよ。


閉じ込めてる気はない、けれど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ