第11話工学院大学
根岸隆の活動領域は、西園寺一晃との出会いを機に、さらに広がった。西園寺の紹介で、隆はいくつもの工学院大学の仕事を手掛けるようになった。それは、単なる法律顧問としての仕事に留まらず、隆の人生に新たな、そして重要な人々との出会いをもたらした。
その中でも、特に大きな存在となったのが、アメリカ公認心理師であり、後に工学院大学で教授を務めることになる井上まつの先生だった。井上先生もまた、西園寺のツテで隆と知り合った人物である。隆と井上先生は、それぞれの専門分野は異なっていたものの、人間の心と社会の複雑な関係を解き明かそうとする、共通の知的好奇心で深く結びついていった。
隆は、井上先生の心理学に対する深い洞察力に感銘を受けた。法律が人間の行動を外部から規制するものであるのに対し、心理学は人間の内面、つまり行動の動機や感情の動きを解き明かす学問である。隆は、この二つの分野を組み合わせることで、より深く、より本質的に依頼人の問題を解決できるのではないかと考えるようになった。
井上先生もまた、隆の法律家としての鋭い分析力と、弱者に寄り添う温かい心に、強い尊敬の念を抱いていた。彼女は、法律という厳格な枠組みの中で、人間味あふれる解決策を探し求める隆の姿勢に、自身の心理学の知見が活かせるのではないかと感じていた。
二人の関係は、単なるビジネス上の付き合いを超え、深い友情へと発展していった。井上先生は、隆の家族、特に彼の息子である豪志の心理カウンセラーまで務めてくれた。これは、隆が井上先生にどれほどの信頼を寄せていたかを物語るエピソードである。
この工学院大学との縁、そして井上先生との出会いは、隆の法律家としての視野を大きく広げた。彼は、法律だけでは解決できない問題が、人間の心の奥底にあることを、より深く理解するようになった。それは、彼の弁護士としての活動を、より人間味あふれる、多角的なものへと進化させていくきっかけとなったのである。隆の人生は、まるで複雑なパズルのピースが少しずつ埋まっていくように、様々な出会いによって形作られていったのだ。




