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第1話 プロローグ:世界は正義で壊れる
世界は、正義で壊れる。
セラ・ルーメンは、そう教えられて育った。
そして――
それが誇張ではないことを、彼女は何度も見てきた。
ルーンフェルド大陸の西縁。
グラナス王国とルミナ教国が押し合う境界では、正しさは先に刃の形を取る。
石造りの記録室。
高窓から差し込む光が、床に細い線を引いている。
セラは、ルミナ教国・白印庁の帳簿にペンを走らせていた。
反乱は、民のためと称されることが多い。
だが秩序を壊した者は、次の秩序を用意しない。
それは教義であり、
同時に、彼女が何度も写してきた現実だった。
帳簿に記されるのは、勝敗ではない。
正しさでもない。
残った事実だけだ。
その日、彼女は一つの名を記した。
エルネスト・ヴァルド。
まだ彼は英雄でも、敵でもない。
まだ、物語にされていない。
だが――
選ぶ者だ。
選び続ける者は、いずれ誰かの正義になる。
正義になった名は、本人の意思とは無関係に刃になる。
ペン先が、わずかに止まる。
セラは窓の外を見た。
遠くで戦火の煙が上がっている。
正義は一つではない。
だが戦場では、同時に並び立たない。
彼女は声に出さず、胸の内で言葉を結んだ。
――どうか。
あの少年が、
自分の正義を、信じすぎませんように。




