ゴミの山
怪談 ~ゴミの山~
山奥へ続く細い林道の先に、その場所はある。
地図には載らない。看板もない。だが、近隣の住民は皆、知っていた。
――あそこにはゴミの山がある。
古い家電、割れた家具、黒ずんだ布団、袋の口が裂けて中身を吐き出した生活ゴミ。
木々の間に無秩序に積み上がったそれらは、もはや「ゴミ捨て場」という言葉では足りない異様さを放っていた。強烈な腐臭と油の匂いが入り混じり、澱んだ空気が昼夜を問わずに周囲覆っている。
空一面が雲に覆われ月明りもない夜、男が車のヘッドライトを消すと辺りは漆黒の闇に包まれた。男はフゥッと短く溜息を吐くと、エンジンを切り車の外へ出てトランクを開けた。
中には、処分に困っていた壊れた電子レンジと、黒いゴミ袋が五つ。
「……ここなら、いいだろ」
不法投棄が悪いことだという認識はある。
だが同時に、ここに来るたび思うのだ。
――もう、こんなに捨てられている。
――今さら一つ増えたところで、何が変わる
どうも最近では、この近くで幽霊を見たという噂が流れているようだった。
夜の林道を歩く人影、ゴミの山の間からこちらを覗く顔。
「ゴミに混じって死体が捨てられているのではないか」
そんなことを言う者もいた。
男は鼻で笑った。
たしかにここに死体が捨てられていてもおかしくはない。
男は電子レンジを持ち上げると、斜面に向かって放り投げる。
金属の鈍い音がして、他のゴミにぶつかり止まった。
その瞬間、胸の奥がわずかに痛むのを感じた。
――俺は悪いことをしている。
だが男は、すぐにその感覚を押し殺した。
罪悪感など、気のせいだ。
みんなやっている。自分だけじゃない。
トランクから黒い袋を一つ、また一つと取り出し捨てていく。
捨てるたび、さきほど感じた胸の痛みが少しずつ軽くなっていく気がした。
「……置いていけばいいんだ」
そうだ。
ここには、いらない物を捨てに来る。
同時に、後ろめたさや、罪悪感も一緒に捨てていく場所なのだ。
男は最後の袋を力いっぱい放り投げた。
そのときだった。
ゴミの山の奥で、何かが、ぎしり、と音を立てた。
風ではない。動物でもない。
男は息を止めた。
目を凝らすと、積み重なったゴミが、わずかに――蠢いている。
袋が膨らみ、潰れた家電がきしみ、壊れた家具が擦れ合う。
それらが、まるで一つの塊として、形を整え始めていた。
人の姿に、似ている。
だが顔はない。
代わりに、無数の“気配”が重なり合っている。
「……これが噂の幽霊なのか」
いや、違う。これは幽霊なんかじゃない。
「そうか......」
男は理解してしまった。これはここにゴミを捨てた人間たちの――
「何が悪いんだ」
「自分だけじゃない」
「仕方がない」
そうやって人々がゴミと一緒に捨ててきた、無数の悪意と罪悪感。
それらが積もり重なり、そしてやがて形を成したもの。
それが“これ”だった。
それは、ゆっくりと男の方へ向き直った。
逃げようとしたが、足が動かない。
背後で、車のドアが勝手に、ばたん、と閉まる音がした。
――捨てたつもりでいた。
――だがゴミと同じで消えさりはしない。ここに残り続けていた。
そして今、
「次は、お前だ」と、
ゴミの山が、確かに、そう告げた。
翌朝、近隣の住民により林道に放置された一台の車が発見された。
トランクが開いたままで、車のキーがついたままだったが、乗っていたはずの人はどこを探しても見つからなかった。
そこには、悪意にのまれた人々が、自分が捨てたゴミと一緒になって死体となって埋もれている。




