7.ディスリスペクトの相手が所属組織のトップともなれば、ディスりは留まるところを知らない
「それでさ、その設定考えたのが、話題の自分思い込み評価で天才の、貴族のボンボン?」
口に入れたチョー高級チョコの調和した甘さが脳をガツンと刺激しているフローは、すぐには飲み込みたくなかったので、口の中でゆっくり味わった分だけ返事が遅れた。
「ごっくん、あー、本当においしいですねえ。これ一粒で崖を飛び降りられます! (チョコ一個で自殺するつもりか? 三百メートル走るだけにしておいたらどうかな)
考えたのは貴族の能無しボンボンで、遠いながらも王家の血縁者だから誰も面と向かっては非難できないのを自分のいい方に取って、夢しか見たことがない、執行不可能なプランを立てるのが大得意の、自分のアイディアに酔い痴れる、年中晴天頭の、この頭の良さに女が惚れこむのさと日々夢想に浸っている、超絶二回転半崩壊した、侯爵家の三男です!」
「気の毒にねぇ、職場に恵まれてないんだねぇ、超絶二回転半崩壊ってのはよくわかんないけど」
「頭の中身が単純に反対を見ているどころじゃなくて、二回転した後さらに反対まで行くから、聞いている方はそこまで行った訳がわかんない、ってことです!」
「ふーん、そまたりゃ凝ってるよね~。
いやー、とーってもおバカなんだね? 自己陶酔系の」
「あ、それです! 自己陶酔! 侯爵家の三男で、いずれどこぞの気の毒なひとり娘のご令嬢に婿入りするんでしょうけど、もうお相手が気の毒としか言いようがありません」
「いや~、相手も夢見系令嬢で、過保護系夢想少年と保護欲満杯姉属性少女で至上のコンビだったり。意外とうまくいくかもよ?」
「だといいですね! ご令嬢には一生夢を見ていてもらいたいものです。早く婿に行って席を譲ってもらいたいです。婿入り先で当主教育に耐えられるかどうかはわかりませんけど!」
片やソファにどっぷり座りこんで片手に紅茶の入ったマグカップ、口にはチョコを詰め込んで、口が空いたら上司の悪口を垂れ流している諜報員、此方人をダメにするクッションにはまり込み、両腕を頭の後ろに組んで足をパタパタさせながら際限なく新しい悪口を作り出している現役の侯爵令嬢・その正体は転移してきた日本女性。
どっちのディスりが上手いか? なのか?