37.王都王城謁見室
国境地帯から単騎でファンデル候領城まで駆けてきたハンスだったが、この先は単騎など許されない。王女殿下の親衛隊から十騎が出され、騎士の従士の他にハンスの従士が二名ファンデル家から付き、威儀を整え粛々と王都へ向けて出発した。早馬が走り、王宮から迎えが出てさらに大人数となる。
「陛下、ご尊顔を拝し恐悦至極にございます」
「よい、紛争地からファンデル領滞在中の我が妹のもとへ、そこから来たとのこと」
「はい」
「危急の知らせとも思えぬが?」
ここまでは謁見室に居並ぶ諸公も落ち着いて聞いていた。
「エインデルを落とすお許しを頂きたく」
「うむ、よかろう」
「は」
諸卿がぐっと顎を引き締めるのがわかる。驚きを顔に出しては、この情報が自分の所に来ていないことを明かすことになってしまう。部屋には腹芸達者が立ち並んでいるらしい。
この場であらかじめ王とハンスの計画を知らされているのは、ファンデル候とローエングリン伯のふたり。
ローエングリン伯は、ハンスから藍が応接間に残したドレスを始めとする衣装類をファンデル家に引き渡すように、そして、その役目は応接間で藍に“仕えていた”ファンデル家とローエングリン家双方の侍女に命じるようにと言われ、何のことかわからないままに、承った。
帰宅して、答えを濁す夫人と執事から事情を聞きだした伯爵が大噴火したことは言うまでもない。夫人は離縁と言われ平謝りだったが、当分の間実家に帰され、一時は代々の伯爵夫人が預かる決まりのパリューレを伯爵に返す羽目に陥った。
ファンデル候もまた、何を言われているかよくわからない様子ではあった。だが、藍が自ら選んで雇った侍女をひとり連れただけで、乗合馬車を使い民間の宿に宿泊しながら二十日もかけて領城まで旅をしたこと、さらに、領城を預かる城代にもアデライーデ失踪の知らせはなかったことを聞かされて蒼ざめた。彼自身は、藍がローエングリン伯爵夫人に招かれて訪問したことしか把握しておらず、婚約者の母と仲良くやっていて、たびたび家を留守にしているものだとばかり思いこんでいた。
帰宅した侯爵は、「藍様はただいまお留守でございます」とだけ言い続けた執事を呼びつけ、その場で殴り倒した。侯爵夫人もまた、侍女長を跪かせて張り倒し、ふたりはその場から地下牢に連れていかれた。
伯爵は言うまでもなく、侯爵もハンスが籍を抜くことに異を唱えることはできなかった。
「この場に会した信を置く臣下よ、わが甥は、十年余を掛けてエインデルの権力構造に食い込んできた。
この度、エアハルト卿夫人の妹に当たる異世界の女性を妻に迎えるにあたり、諸処の問題を一掃し、皆に祝われて婚姻の儀を迎えたいとの強い希望である。
ハンスは、母たるエリーゼ王女の命を以てローエングリンとの養子縁組を解消、王命を以てファンデル家から籍を抜き、これ以後は王女の一子、王家の子とする」
諸卿は驚きを嚙み潰し、軽く頭を下げて了承の意を示す。
「さて、ハンス、よいか」
「は」
「王を支え、グランツフォルの栄光を担う諸賢に申す。
ハンス・アルベルト・ブルトカッセン・フェルワルドは、今日より六十日以内にエインデルの王、王妃、皇太子夫妻を、わがグランツフォルの客人として王城にお招きすることを約する。
留守となるエインデル城は、エリーゼ王女殿下が統治権とともにお預かりする。
客人となられるエインデル王家には、丁寧に接していただけるよう、我が名で願う。これは王女殿下の願いでもある」
翻訳:六十日以内にエインデルの王と王妃、皇太子夫妻を拉致してきて、王宮に監禁、母上をエインデルの統治者に据える。つまり、エインデルをグランツフォルに併合して、公爵領とする。わかってると思うけど、実質俺が統治者だからね? 母上も了承してるからね。OK?
藍を妻にするけどもちろん文句ないよね、反対するならおまえんとこの領も俺が併合する。もちろん準備はできている。覚悟して口開けよ、いいな
前作から延々10万字、ようやく、やっと、ハンスの腹黒を描けたです~、よかった~
パリューレは、セットになった女性用宝飾品のことで、ネックレス、イアリング、ブレスレット、リングの4点が、揃いの宝石、揃いのデザインで作られています。大貴族の家の跡継ぎの夫人が、夫が爵位を継承した後で、前夫人から受け取るようです




