30.メイベルは八百屋のおかみの貌に戻って知恵をめぐらせる
急ピッチで藍の部屋の準備が進む間、メイベルの居間でお茶の時間となった。
「藍、元気そうだね、よくここまで無事で来たよ」
「うん、ありがと、メイベル。
フロー、ちょっと」
呼ばれたフローは、立っていた壁際からソファに近寄って藍の後ろに立つ。
「フローレンス・カンペールっていうの。キャンプ地の近くで会って、侍女になってくれたの。
えーっと、フロー、自己紹介」
「はい」
フローは、膝を折って頭を下げた。まだ男装なのでちょっと面白い。
「はじめてお目に掛かります。フローレンス・カンペールと申します。藍様に侍女にしていただきました」
メイベルは何と答えていいかわからず、ただ、「そう」と言うのみ。
「フローは、フルリールの情報部の下っ端で、私とメイベルの情報をゲットしに来たんだって。
ね、フロー。これでメイベルにも会えたし、よかったね」
「ええー!」
メイベルには、何がどうしてこうなったのか、全く理解できない。そりゃそうだろう。
まあまあ、これから説明するし。とか言いながら、お茶を飲んで、お菓子にも手を出す藍。
キャンプ地の付近をうろうろしていたら、行き倒れたフローに会って意気投合したことから始め、時々フローに事実関係を確認しながら、何がどうしてこうなって、領城までたどり着いたか、順に話していく。
藍の話をできるだけ落ち着いて聞こうと努力しながら、自分とふたりでキャンプ地にいた頃を思えば面変わりしたかのような姿に、驚いたり安心したりするメイベルだったが、たまにフローを見て「これでよかった?」と確認を入れる様子を見れば、藍がフローを信頼していることはよくわかった。
「わかった、とにかく、無事にここまでこられたのは、フローのおかげのようだね。
フローレンス・カンペール、よくやりました。この子は私の大切な子です。エアハルト夫人としても当家の大切な娘、国境紛争で落ち着かないこの時期にあなたという旅慣れた人に出会って忠誠の誓いまで手に入れるとは、この子の強運にはあきれるほどですよ。
十分な褒賞を準備します。この先も誓った忠誠に背かぬ奉公を」
「はい、マダム・エアハルト。いまの境遇は私にとっても幸運以外の何ものでもありません。藍様と出会わせてくれた神に感謝し、生涯忠誠をたがえぬことをお誓いいたします」
「藍、パソ神様に毎日お礼を言っているんだよね、ほんとうにこれほどの幸運は思いつかないほどだよ」
「うん。わかってる。毎日感謝のお祈りして、せんべいをお供えしてるし。フローにはデパ地下スイーツを順におやつに出してるもん」
うん、うん、と頷くフロー。
「はー、もう。藍はもう。 とにかくよかったよ」




