29.領城でメイベルに会えた藍は、すごくうれしい
領城の城下町に宿を取り、藍はメイベル宛に手紙を書いた。「なんとかたどり着いたよ、メイベル。この手紙を持っているのは、安全のために男装しているけど私の新しい侍女で、フローレンス・カンペールというの」という内容だ。
服装を整え手紙を届けたフローは、領城を預かるエアハルトの執事とともに馬で帰ってきた。
「藍様、よくご無事で」
執事は、王都邸にいる筈の侯爵家の養女が王都を出たことを知らなかった。とにかくご本人を確認してからと、馬車の準備も待てずに馬に鞍を置かせて飛び乗ってきたのだった。
「すぐに馬車を迎えに来させます。エアハルト夫人がどれほどお喜びになることか、すぐにお知らせします。侍女ひとりで護衛も付けず領城まで来させるなど、王都邸の執事はただでは済まされません、誠に申し訳ありません」
「そう言わないで。黙って出てきたのよ」
「は?」
執事も藍と会うのは久しぶり、元の世界への帰還陣に乗って手を振る藍をエアハルト夫妻の後ろに控えて見守った時以来だ。
「事情はお義姉さまに説明するわ。同席なさいね」
「はい」
フローの指導ですこし貴婦人らしくなった藍に礼をして、執事は再び馬に乗って領城へと急いだ。
宿の部屋でお茶を飲みながら待つうちに、迎えの馬車が来た。
領城では、侯爵家の次女が初めておいでになるというので、奉公人がずらりと並んで待っていた。藍が怯むのではないかと心配顔をして中央で待つメイベルだったが、ごく鷹揚に、「出迎えありがとう。アデライーデです。顔をあげなさい」と、堂々たる貴婦人ぶりを披露した。
メイベルに近寄り、「おねえさま、ごきげんよう」と、にこりと微笑む。メイベルは感激のあまり大きなおなかをものともせず、藍を力いっぱい抱きしめた。
「痛いわメイベル、離してちょうだい」
おなじみのセリフに、ふたりの瞳に涙が滲んだ。




