25.藍は専任侍女をゲットした
「あ、そうだ、そういや私地図持ってるわ」
「ええー、まさか! それって国家的戦略情報じゃないですか」
「知ってる。でも最新とかじゃないよ。侯爵家の図書室から古い地図見つけた時、トレースしたやつ」
「えーっと、見せていただいても?」
「あーっと、フローはフルリールの諜報員でしょ?」
「昨日から藍の侍女です」
「そうなの?」
「ジョブチェンジしました」
フローは、置き畳のうえに足を延ばして座っている藍の横に膝をつき、へ?とか思っている藍の左手を取って、額に押し付けた。
なんだ? プロポーズか? ハンスと決闘するか?
「わたくし、フローレンス・カンペールは、ファンデル侯爵の次女であられる、レディ・アデライーデ・ルイーゼ・エッシェンフォルゲンに命の恩をお返しするべく、生涯の忠誠をお誓い申し上げます。神の護りあらんことを」
「え?」
「騎士の誓いみたいなものです」
「はあ、ありがとう」
「受ける、と言ってください」
「うん、やってみる。
フローレンス・カンペール、あなたの誓いを受け、主としてあなたを守りましょう。神の護りあらんことを。
これでいい?」
フローはにっこり笑って、ありがとうございますと再び藍の手に額をつけた。
唐突に忠誠の儀が行われたが、フローは昨日のうちに決意を固めていた。餌付けされただけかもしれないが。
確かに、一個三百円のチョコを十個も食べたのだから、忠誠の誓いを捧げたくなるのもわかる気がする。三千円で捧げる忠誠とかイマイチ安い気もするけど、こいつは、チョコ一個で崖から飛び降りちゃう女だからなぁ。
動じなかった藍の方はイマイチ姿勢がよくわからないが、“騎士の誓い”をカッコイイと思っていたことはほぼ確か、ハンスの求婚も気に入っていたみたいだし。それの侍女版と言われて、ノリで受けただけだろう。
ふたりは、忠誠の誓いおめでとう、ありがとう、とかテキトーなことを言いながら、記念にコーヒーで乾杯して、チョコを食べた。
昨日チョコを十個食べて鼻出血騒動を引き起こしたフローは、今日は八個までにしようとか呑気に考えているし、藍の方は次のチョコはどこのメーカーにしようかな、ナッツの方にしようかな、とか気楽そのもの。
主従ともに軽い。そこがお互いに気に入っているのだろう。
「それじゃあ、腹心の侍女さん、地図どうぞ」
「はい。あーこれは確かに古い地図ですね、村の位置などは今と違うものもあります」
「そっか、フローがいれば地図はいらないのね」
「そうですね、行ったことがある範囲なら間違いなくご案内できます。
それでどこに行きます?」
「あー、それ。フローが案内してくれるなら、メイベルのいる、ファンデル侯爵の領城に行きたいんだけど」
「あ、はい、それは簡単です。そうですね、乗合馬車を乗り継いで、早ければ十日ほどでしょうか」
「そっか、途中の町に泊まるんだよね」
「行きます? ご領地はごらんのとおり海に面していて、貿易も盛んで豊かな土地柄です」
「どうせどこかに行くなら、メイベルの所がいいな、海も捨てがたい」
「わかりました。わたしは藍に忠誠を誓った侍女ですからね、仰せのままに」
「頼りにしてる」
「お任せください」
5才児の時から暴力と謀略の世界で生きてきたフローは、藍の善良で優しく、思慮深いとまでは言えないまでもアホではない絶妙さが気に入ってしまったのです
そうだ、もうスパイはやめて、このお人好しの貴族の養女の侍女になっちゃおう! 侍女も護衛もついていない今がチャンス! 千載一遇のチャンスとはこのこと
一番気に入っていたのはもちろん、異世界の食べ物、特にチョコ、が思いっきり食べられるトコロ




