24.次の朝。ディスりはさすがにネタ切れだと思われるのだが、どうだろう?
朝、藍は、フローはもう逃げ出しているというか、諜報員が必要な情報を手に入れたのだから、夜の間に山を下りているとばかり思っていた。
だが、フローは人をダメにするクッションの上で、ガー・オン、ブ・フォーン、フガフガと、聞いたこともない往復いびき・呼吸調整音入り、を高らかにとどろかせながら、巨大ビーズクッションに埋まった状態でできうる限りの大の字になって眠ったままだった。藍は、修学旅行とかゼミ合宿のようなチャンス以外で他人と同じ部屋で寝たことがなく、人のいびきを聞いたことがなかった。だから、お~これぞ迷惑系の大いびきか、と感動するまであった。しばらく聞き入ってしまった。
藍、結婚は無理かもよ? やっぱり婚約破棄しとく? 倉名は協力するよ? ヲシワードに婚約破棄って書けるし。
ところでフロー、あんたは本当にスパイなの? 職業詐称?
フローはそのまま幸せに眠らせておくことにして、お決まりの朝パンとゆで卵、ホットコーヒーをいただき、さて、この先どうしたものか、このもはや疑わしい以外の何ものでもなくなっているものの、自称フルリールの諜報員はどうするのか、自分はどうしたいのかについて、時々途切れて睡眠時無呼吸症を疑われるいびきをBGMに考えていた。
「はあ、どうするかな。山から出る道はフローが案内してくれるかな。案内された先がフルリールの諜報員の待機場所で、そのまま攫われるとかするかな、うーん」
「藍、それはないです」
「うん?」
いつの間にかいびきから解放されたらしいフローが、気配もなく起き上がっていた。
あの巨大ビーズクッションから筋力だけで起き上がるとか、やはり只者ではないのか?
「あ、起きた? パン食べる?」
「はい、お願いします」
「えーっと、顔洗いたいでしょ、あっちの竈でお湯沸かしてあるから、この水を持って行って、あ、タオルも。洗面器もあるよ」
「はい、ありがとうございます」
パン、ゆで卵、茹でウインナー、トマトとレタス、レトルトパウチのポテトポタージュ、コーヒーを出した。フローは本当においしそうに食べる。これまでの食生活について聞いてみたかったが、それも失礼かと遠慮した。
「でさ、今日はどうする?」
「藍はここでどうしていたのですか?」
「だらだらしてた。そんで、ときどき外を歩いて探検みたいなことしてた。どの方向に行ったら山を下りられるかな、って」
「山を下りたかったのですか?」
「うん、どっか違う場所に行こうと思って。家出してきたし。そろそろ私がいないことが侯爵夫妻かハンスに伝わっているかも。鋏で切り開いたドレスとか、これ見よがしにおいてきたしね~。
どうでもいいけど、探されるのはイヤかな、面倒だし。あ、そうか、メイベルもハンスもハインツもいないんだから、ここが元キャンプ地だったことは誰も知らないのか! やった、当分いても大丈夫だ~、よっし!」
「はあ。禁足地で人探しはなかなかできませんよね、確かに」
「あの、山を下りるなら、案内できますけど」
「うん、頼んでみようかな、とは思った。でも諜報員の後をのこのこついて行って、待機している諜報員仲間がいる隠れ家かなんかに案内されるのもどうかなって」
「正直なご意見をどうも」
「うん」




